そして、二人は、準備完了となり、早速、バーチャルの桃源郷の中に入っていったのだ。
バーチャル空間の中に入っていくと、例の場所である、義男達の集まるルームに向かって行ったのだ。
果たして、そこには義男達の姿が確かにあったのだった。
「義男さ~~ん!!」
すぐにユミコが素っ頓狂な甘ったるい声を上げた。
其れほどまでに、昨日会ったばかりだというのに義男に会える今日のこの時を心待ちにしていたのだろう。
義男の方も男としてユミコほどの美女に慕われて勿論、悪い気などしなかった。
それどころか、男冥利に尽きていたのだ。
「あぁ、会いたかったぁ~~!!」
幸子も負けずにユミコを押しのけ義男に擦り寄っていった。
その際、あまり夢中であった為に、慌ててしまって思わずユミコの事を軽く突き飛ばしてしまったのだ。
「あ、痛~い!!」
「大丈夫かい!!」
痛がるユミコに対し、優しく義男が労わりの声をかけたのであった。
まあ、もっともバーチャルの中なので本当に痛いと言う事はなかったが、その様に感じてしまったと言う言い方が正しいのだろう。
アバターのお人形同士のやり合いではあったが、ここでは義男は歴としたお人形という体を持っていたのだ。
ますます女心としては義男を奪い合って独占欲に駆られる訳だったのだ。
しかし、ここで気をつけないとならないことがあるのだ。
それは、今ここに集まっている者達の中には、幸子にさんざん奢らされ騙され捨てられた男達がスットボケてアバターのお面をつけていけしゃあしゃあと参加していたことだった。
過去さんざん自分の都合で振り回し、また自分の都合で捨ててきた軍団がいつのまにか鼠講のように膨れ上がり、このバーチャル空間をアジトとし、屯しているという表現が正しかろう。
“あの女、今に見てろよ!目に物をいわせてやる!!”屯をしている全員がきっと本気でそう思っているに違いないのだ。
そして義男は気づけばユミコの人形に労わる様に寄り添っていたのだった。
幸子は、突然襲って来た、心臓の小刻みな高鳴りの連打に不安と恐怖の思いを隠しきれず、また顔が青褪めていった。
“私ったら、まったく、どうしちゃったのかしら・・、またこんなに突然に具合が悪くなってしまうなんて・・これもユミコサンの呪いのせいだと言うのなら、キチンと話し合って原因を確かめたほうがいのかしら・・”と真剣に思い悩んだのだった。
そんな幸子のことを他所に、ユミコはサッサと一人、デスクの上のパソコンに向かって、例のバーチャル桃源郷に向かうログイン作業を始めていたのだ。
「さあ、これでいつでも入れるわよ!」
パソコンのディスクトップのエクスプローラーのサイト上にバーチャル桃源郷の画面が開き、準備OKになると、ユミコは幸子に明るくそう呼びかけたのだった。
幸子は戸惑いながらも思い切ってユミコにこう問いかけた。
「ハッキリさせたいのだけど、私ね、あなたの知り合いとか本当に誰も知らないのよね、だからもしそう思っているのなら誤解を解きたいのよ!」
するとユミコは驚いたように目を丸くして
「誰もそんなこと思ってないわぁ~!この間はごめんね!!言い過ぎちゃったみたい!」
と信じられないくらいにとても優しい態度だったのだった。
というか、前の時とは状態が違い、今では幸子の体の中には、義男の‘愛しい者’が宿り、確かに何かが芽吹いてきている状態なのだ。
なので、この間、幸子の体の中に‘愛しい者’が入ったその瞬間にユミコが気を失ってしまい、その後、心配をする幸子にしたたか顔を打たれ目覚めたことを義男と哲史に聞いて知り、とても気に病み、そしてまたしても今現在、今度は幸子の方が、こうやって具合が悪くなってしまった事を本当に自分と幸子は、何かに祟られていると感じノイローゼになりそうだった。
ユミコは気を失った時に幸子に平手で両頬を打たれまくったと言う事実は記憶に無かったとしても、知ってしまった時は、やはりショックだった。
ユミコはその時点で自分は絶対に幸子には勝てない、太刀打ちができないと思ったのだ。
だからこれから先、いかなる場合であっても幸子に対しては何も余計な事は言うまい逆らうまいと心から硬く誓っていたのだった。
「私の方こそ、疑わすような態度とってしまったなら謝ります、ごめんなさい」
「うぅん、そんな事ないから絶対に心配しないでね!疑ってないからね!!」
この会話の時点で、心臓のバクバクしたザワメキは大分収まっていた、義男から授かった‘愛しい者’が何かを察し、興奮していた気持ちを静めたらしかった。
そして、ここで、絶対に忘れてはいけない事がある。
それは、義男に恋焦がれているのは、幸子とユミコの二人だけではないと言うことだ。
そうだ、幸子がユミコによってかけられてしまった死の呪いの魔術から身を守るために義男から授かった‘愛しい者’だって、義男が“僕の彼女だよ”と言っていたくらいなのだから、義男に恋焦がれているのに違いなかった。
だから、こうして義男に指示されて自分が守らなくてはいけない相手であっても、あからさまに自分の愛する男性を恋しているのを見せつけられて嬉しい筈もないのだ。
もしそういう嫉妬の念をコントロールできているとしたら、それほど義男の魔術はレベルと完成度の高いものなのだろう。
だが、魔術を超えた熱い血潮を呼び覚ますような鼓動が今まさに幸子の心臓を早鐘のように鳴らし始めていたのだった。
いつもより、確かに左にある心臓がザワザワとしていた。
やはり、‘愛しい者’は自分の意思を持っていたのだ。
それも、とても強いエネルギーを撒き散らすほどのパワーだった。
愛する男性の命令どおりに幸子の体内に宿っては見たもののユミコの恐ろしい邪悪な死の呪いから守ってやろうというのに、肝心の守るべき相手幸子は守って下さる相手の愛する男を目の前で平気で奪おうとしている始末なのだから。
真に女という生き物は生まれつき業の深い、罪深い穢れたものなのか。
その為に、幸子のことを守ろうとする為に義男が幸子にかけた術の境界線が今、音を立てて崩れ去ろうとしていたのだ。
完全に今、‘愛しい者’は、義男の指令より自分の意思を最優先していたのだ。
幸子の心臓がバクバクと音を立てだした。
「あぁ、私、なんか変だわ!心臓から何かが出入りしているのよ!!」
「ええ、なんですって!それは大変だわ!!」
「これから、例の場所に行かないとならないのに何だか苦しいのよ!」
「無理しないほうがいいわ!もう少ししてからでも行こうと思えば行けるしね!」
幸子とユミコは既にパソコンの前にいたが、まだ、ご覧の通りとてもログインが出来る状態ではなかったのだ。
「お待ちどう様!!」
明るくにこやかに元気よく幸子はそう言うと、トレーからモーニングをテーブルの上に運んだのだ。
モーニングのメニューは、卵とハムのサンドイッチとホットミルクだった。
「あら、まぁ、本当に気が効くわねぇ!有難う~美味しそうだわぁ~!!」
モーニングは勿論、二人分用意されていた。
なので幸子もさっそく、ユミコと二人でモーニングにパクついたのだった。
「よかったわ、喜んでもらえて・・w」
幸子がそう言えば
「うん、もう!朝はヤッパリこれに限るわぁ~~!!」
とユミコがモーニングの美味しさに思わず呻ったのだった。
幸子は元来、料理は嫌いなほうではなかった。
だが、義男から授かった義男の‘愛しい者’がまるで気を遣ったかのような手際の良さの調理内容であったのだ。
恐らく、この義男から授かった‘愛しい者’は料理が得意科目ではなかろうか?
ふと、そんな事を考えた時だった。
ユミコが茶目っ気のある目つきでこう言って来たのだ
「さあ、これを食べ終わったら、例の場所へいくわよぉ~~!!」
紛れもなく、その例の場所とは例のバーチャル空間の桃源郷の事であった。
そして、そこでまた義男達に会えるのだ。
そう考えるだけで胸が熱くなるのは何もユミコだけではなかったのだ。
何を隠そう幸子だって、義男とはキスすれすれの関係にまでなった仲なのだから。
こうやって仲良くモーニングを食べる仲ではあったが、実は心の中では赤々と恋のライバルに対する闘志の炎が燃え盛っていたのだった。
しかも、幸子は義男以外にも哲史と海外旅行をしたという事実もあり、その上、不幸にも義男と哲史はつーかーな関係になったようだし、心の中はますます複雑に試行錯誤を繰り返して行くのであった。
でも、ハッキリ言って、どちらかを選ぶとしたら、やはり幸子の心はメルヘンの使途の星の王子様のように凛々しい義男の方であったのだ。
「あら、おはよう!ご機嫌はいかがかしら?さっそく、今からモーニングの準備をしますね」
そう言うと、幸子はダイニングキッチンに行く為に、自室から出ていった。
そこで、モーニングを作る為だった。
自室は二階にあるので、そこにいく為には階段を降りなければならなかった。
幸子は階下へ向かう階段の手すりを上手に使いながらスイスイと一階へ滑るように降りたのだった。
その姿はさながら元気のいいオテンバ娘のようであった。
幸子の自室では、ユミコが、まだ完全に眠気が取れないのか両手を挙げて、大きく伸びをしていた。
「あぁああぁ~~~~!!今日もまた新しい一日が始まるわあぁ~!!!」
そう言いながらユミコの脳裏には夕べの義男が別れ際に言っていた、『目が覚めたら、例の場所で会おう!』と言う言葉を思い出していた。
思えば、大変情熱的で劇的な想い出深い別れ際であった。
今にも立ち去ろうとする義男に対して慢心の想いを込めて思いっ切り抱きついたのだから。
“義男は、私だけの物よ!誰にも渡さない!!”
義男の事を完全に私物化し、心から本気でそう想い独占欲に燃えていた。
“近づく物は、皆、容赦しないわぁ!!”
今、現在でも間違いなく、そう想っているのだから始末に終えないのだ。
恋する女のサガと言おうとか。
巻き込まれた者の身にもなれと言いたいものだ。
確かに義男は素晴らしく凛々しくて雄々しいプリンスであるが何もそこまで剥きになることもあるまいに。
誰も駄目とは言ってはいないのだ。
どうぞ、勝手にするが言いとみんなが思っているのに違いないのだ。
そして、義男がいう例の場所とは外ではなく、15人とそれプラスの陰謀集団が待ち受ける、例のバーチャル空間の桃源郷の事を指し示しているのは間違いなかった。
そこ以外に彼らと接点を持てるような場所はもはやなかったのだ。
色々な考えが過っているうちに幸子がモーニングをトレーに乗せて自室の扉(ドアー)を開けたのだった。