そして、半透明の上半身を生き生きと躍動させながら、義男は、さらにこう続けた。
「僕の愛しい者をどうぞ、よろしくねw」
それに対して幸子はこう答えたのだ。
「その愛しい者とはいったい何者ですか?そして、それは、いつ私の所へ来るのですか?」
義男はこれ以上はないと言うほどに、最高の微笑を浮かべながらこう答えた。
「君が望むのなら今すぐでも大丈夫だよ」
星の王子様のように凛々しい義男にそう言われて、幸子は女心として少しドキッとして、ポォッ~っとなったのだった。
「まぁ、そうなんですか?それが本当に良い者なら嬉しいですけど」
「間違いなく良い者だよ、君の事をユミコの邪悪な死の呪いから守ってくれるのだからね」
「それから、・・・・」
義男との会話のやり取りで、急に何か疑問が沸いたかのような発言を幸子がしかけた。
「何故、私(わたくし)はユミコという女性に呪われているのでしょうか?」
毅然とした態度でそう発言した幸子に対して、義男はこう答えたのだった。
「それはね、長くなるからね、一辺には話せないよ」
そう言われれば、余計聞きたくなってしまうのが人の常だ。
幸子も例外ではなかった。
「もったいをつけずに話して下さい!理由がわからないと不安で仕方ないんです!」
義男がとても困ったような面持ちで両手を肘から上に上げてお手上げのポーズを取るとすかさずこう答えたのだった。
「君は、噂だと沢山の人を利用して騙して傷つけてきたらしいね、あぁ、傷つけたならごめんね、でもそういう噂を聞いたものだからね、簡単に言えば、その様なことが原因していると思われるよ」
それだけ聞くと幸子はいきなり表情を歪め、固く結んだ唇を震わせながらこう答えたのだ。
「私(わたくし)はそのような覚えはありません・・・断じて・・・」
そういいながら眉間に皺を寄せ顔を引き攣らせ顎を引くと片手の拳を口元に添えながら、とても怯えるような仕草をしてみせたのだった。
半透明の上半身姿で、義男が幸子が間一髪の時に、幸子の自室にまるで救世主のごとく現れたのだった。
そして、その時の幸子の自室の状況は、先程、ユミコに断末魔の雄たけびのごとく喚かれた途端、突如苦しくなりもがいた時に自分の爪でデスクの上を思いっきり掻き毟ったので、その勢いでデスクの上から床の上に飛び散って書類やノートや文具類が乱雑に散乱していた。
それ程に苦しいのだろう。
それを察したかのように義男が優しくまた幸子に語り掛けた。
「苦しいのかい、彼女にやられたのだね・・可愛そうに」
そう語りかけられるとデスクの下で蹲ったままの状態で苦しくて気が遠くなりそうで今にも意識が薄れそうな幸子がなんとか余力を振り絞って掠れたか細い声でこう答えたのだった。
「あの・・うっっ・女性の・・・ことを知って・・・いるんですか?」
とても辛そうに声も途切れ途切れだった。
「知っているよ、あの子はユミコというのだけど、特殊な能力の持ち主でその気になれば人一人すぐ殺せてしまう力を持っているのだよ」
「それで・・・は、私・・は・・・この・まま・・では死・・・んでしまうの・・でしょうか?」
血の気の失せた様子で力なく幸子が義男に問いかけると義男は少しも怯むことなくこう答えたのだった。
「僕の術を使って君の苦しみを和らげることは簡単だよ、だけどもしもユミコに死の呪いをかけられていた場合はそれだけでは無理だよ・・・」
「私は・・・死の呪・・いを・・・かけら・れて・いる・・ので・・・しょうか?」
幸子がまた苦しそうに途切れ途切れにそう言い出した途端、義男が何やら呪文のようなものを小声で唱えだした。
すると幸子はみるみる顔色が良くなり、生気を取り戻し、さっきまでの苦しみが嘘のように消え去り、体がすぅ~っと楽になったのだった。
その様子を見て義男がニコニコと微笑みながらまた幸子にこう問いかけた。
「これでしばらくは大丈夫だよ、だけど死の呪いだった場合しばらくするとまた苦しくなるよ・・何しろあれは強烈な呪いだからね、何度も繰り返し死ぬほどの苦しみが訪れるのだからね」
「そうなったらいったいどうしたらいいのでしょう?」
幸子がまた恐怖に駆られて不安な面持ちで義男に問いかけると、まるで星の王子様のように瞳がキラキラと輝いて義男が頼もしげにこう答えたのだ。
「だから、僕も考えたのだけど、今、米田のとこに預けている僕の愛しい者を君の所へ送ることにしたよ、そして君を守って貰うのだよ」
ユミコが幸子が経営する“お洒落なBAR”のシルバーのバーデスク越しに大声で捲し立てていた。
「だから、もう~、わからない人ね!!さっきから聞いてたら、あなたって、本当に自分のことばっかりだわぁ!!」
幸子が負けずに言い返した。
「私(わたくし)は、間違っていることは何一つ言ってないと思います、それにここは私の部屋ですから出て行ってくれと言う権利があると思います、何も分かってないのはあなたの方だと思います」
ユミコはさっきこの部屋にずっと居た来客の米田が扮するトナカイのアバターがロムをしたきり動かなくなり、固まった状態でいきなり落ちたのを気づいていた。
米田が落ちた後は他の来客たちも、女同士のいつまでも続く耳障りな会話に痺れを切らせ皆、他の部屋に移動したり落ちていたのだった。
ライラですら、晩御飯時になったのでとっくに落ちていた。
「その、わたくしっていうのやめてもらえないかしら、さっきから何度もあなたが‘わたくし’とか‘おほほほほほほほっ’というたびこっちは体に虫唾が走って神経がどうかなりそうだわぁ!!相手のそういう気持ち、真剣に考えたことあるぅ?!あなたのその調子に呆れてお客だってみんな消えちゃったじゃない・・・」
「あなた、何者なんですか?蹴ってもチャックをしてもビクともしないし、怪物ですか?!」
「怪物ですってぇ~~~!!!いい加減にしてよぉ、もう我慢できないわぁ!!!!」
その次の瞬間に、幸子が急に“うぅっぅ~”といいながら、蹲ったのだった。
だが、その姿はバーチャルの中では見えるはずもなく、ただ幸子の操縦するアバターが急にロムして動かなくなっただけだった。
幸子が蹲ったのは自分のリアルのパソコンのある自室でだった。
そしてこの時、幸子は急に苦しくなってパソコンの画面を静止する気持ちの余裕もなくなっていたのだ。
気づけばあまりの苦しみに茂垣ながらパソコンの置かれているデスクの上を手当たり次第に爪で掻き毟っていた。
気が遠くなり、次第に全身の力が抜けデスクから体が崩れ落ちそうになった時だった。
「大丈夫かい?」
後ろから心配そうに声をかけてきた者がいた。
それは紛れもなくあの義男の声だった。
と尋ねたのだった。
すると義男は、得意げにこう答えた。
「それは、念力や霊能力の力だよ、魔術にも似ているね、本当に素晴らしいよ、彼女にはその力が溢れているね、僕にはわかるのだよ」
米田がすぐに返答した。
「それで、おまえが魔法の力を持っているというのか?、それなら俺にも少し分けて欲しいな、今のままじゃ、とっても不自由だ、何しろお前に呪いをかけられたからな」
「呪い?」
「そうだ、お前がこの間、話していた愛しい者って、この間以来、ちょくちょくと耳元で聞こえる幻聴とか、目の前をちらつく怪しい幻覚のことだったのか?おかげで急性神経性胃炎になったぞ!その上慢性だ!!」
義男は、米田にこう問われると、急に半透明の上半身姿のまま顔の表情を強張らせ、額に片手を押しあて少し苦しそうに震えているように見えた。
米田もそれを見て少したじろいたが、かろうじて持ちこたえ義男にまた問いかけた。
「愛しい者とは、あの幻聴とか幻覚のことをいうのか?」
義男はかなり辛そうに眉間に皺を寄せ顔を歪めたが、一瞬息を深く吸い込み思い切り深呼吸をすると、いくらか気持ちが落ち着いたらしく、米田に向かって言葉を発した。
「君には、そういうものが感じられたり、見えるんだね、僕は間違ったことをしてしまったかな?それならば謝らないとならないね、僕には愛しい者の深い熱い想いが、いつの日も心の中に小波のように押し寄せてくるのだよ」
「本当にそうなのかい、本当だったら、それはすごいよなぁ、義男!」
「なら、君には感じられないのだね、之ほどの彼女の熱い想いが、ならわかったよ、もし君に操縦が不可能だったら、いつでも僕にいってくれ!」
「なんだと?!これは操縦をする必要があるものなのか?俺には呪いにしか感じられないぞ!」
「最初からは無理だよ、ゆっくりと静かに充分に心を落ち着けてから心の目を開くんだよ、そうすれば、きっとよくわかるからね」
「では、呪いではないのか?彼女とは、これは亡霊のなせる技で女なのか?!」
「亡霊?!それはひどい言い方だね、彼女は亡霊じゃない彼女の魂は永遠だよ、僕はいつも彼女と一緒なのだよ」
米田と義男の信じられないような不可思議な討論はまだ終わりそうもなかった。
その頃、まだバーチャル空間で幸子とユミコは揉めていたが、ユミコは幸子に言葉をチャックされたのだが、それもユミコが念力で弾き飛ばしたため幸子の“お洒落なBAR”の部屋には非常に緊迫した脅威に満ちた旋律が駆け抜けていたのだった。
“なんてこった、俺らがこれからこいつらを追い詰めて、滅茶苦茶にしてやろうって思っているのに、そうするまでもなくお互いが相殺しあっているな!”などと心の中で思っていたのだった。
滅茶苦茶にしてやる理由は言うまでもなく、幸子にはさんざんに奢らされ、いいようにあしらわれ捨てられた恨みと、伝言女性Aであるライラには、お金の恨みはなかったが、接客で働いて得たお金を幸子に使い尽くし、その金で幸子と二人で遊行して楽しんでいる姿を見せ付けられたという恨みがあったのだった。
この二人の女のことを米田は絶対に断固として許せないと思っていたのだ。
ユミコに対しては初面識だったので、特に何の感情も沸かなかったが幸子と話し合う中である以上警戒をしなくてはと思ったのだった。
そして、そう思っていたのは米田だけではなかった。
あの米田以外の15人とそれプラスの陰謀集団の全員が幸子と伝言女性Aの甚だ迷惑コンビを地獄の底へ突き落としてやろうと心底から思っていたのだった。
その怒りと憎しみは、さっきの幸子と新参者のユミコのチャンチャラおかしい戯言のやり取りの茶番劇程度では収まりきらないのは無理もなかろう。
皆、幸子に図書券やチョコレートボンボン、ラーメン、高級料理や大量の酒に洋服やアクセサリーまでかなり高額に使わされまくっていたのだ。
確かにライラは、パスポートをホテルで奪われていたりして、少し仕返しもできたが、やはりそれでも接客で得た金を武器にさんざん楽しそうに、あちこちで二人で見せ付けた罪はとても深かかったのだ。
自分たちだって、女性に生まれていたら接客で働いて幸子と遊べるのになぁと心から羨み妬んでいたのだった。
なので、簡単にはここから絶対に出してやるものかと例の陰謀集団全員が思っていたのだ。
米田が固く復讐を心の中で誓っている時、また義男の声が後ろでしたのだった。
もちろん義男が現れた場所は米田のパソコンがある自室だった。
相変わらず義男は半透明の上半身姿だった。
―そして、こうしている間にも幸子とユミコのヒステリー状態の言い合いは続いていたのだった。なんとユミコのアバターは幸子に思い切り蹴られたにも関わらず怪しげな念力の力によってまだ幸子の部屋に居座っていたのだった―
「あの子はすごいね、あの子も能力があるらしいね」
義男はユミコのことを米田にそう言うと米田は不思議そうに
「それはどういう能力なのかい?」