「ねぇ、あなたはいったい誰なの?教えて、誰だかわからないと私とても怖いわ」
ライラは真剣に恐怖心を抱きながら、体をガチガチと振るわせた。
無理もない、誰もいないはずの自室に得体の知れない人物が突如現れたのだ。
誰だって、ゾォッとする。
そして、その恐怖心は何が何だかわからないものの、これまたゾッとするほど美しい少女なのでまたその不気味さと併せ持って、異様なミスマッチ感が迫りくる畏怖の念にも似ていたのだ。
意味もなくブルブルと震えているライラに対して、その世にも美しい少女は、やがてこう言った。
「もうすぐ、幸子は死ぬわよ、うふふふふ・・・w」
「えっ!?」
幸子と言えば、最近はもう連絡が取れなくなっていたし、本人からも当分会えないと言われていた。
つまり、断られたばかりの状態だった。
まったく恨みがないとも言い切れないが、別に死ねばいいとまでは思っていなかったので、自分に関係ないはずなのに、色々と知っているといいたげなその妖しい侵入者の言葉にライラは得体の知れない恐怖心を抑えきれなかった。
「あなた何者なんでです!いきなり人の部屋に勝手に入ってきて、そんな失礼な話ってないわ、ひどいじゃないですか!!」
ついつい声を荒げてしまったのだ。
それは、現在の得体の知れない侵入者に対する恐怖心を吹き飛ばす為の懸命のもがきとでもいおうか。
その美少女は上品そうに自分の肩に片手を置くと薄笑みを浮かべ椅子に突然起こった出来事に対する恐怖に凍りついたように座ったままのライラを見下ろして嘲笑した。
そしてこう言ったのだ。
「私にとって幸子は邪魔なのよ、あなたもきっとわかってくれるはず・・・ねっ、そうでしょ」
「何が分かるというの?!あなたと私は今会ったばかりよ何も分かる訳ないわ!」
「なら、教えてあげるわ」
妖しく美しい謎の侵入者は、そう言うと突然姿をフッと消したのだった。
そして謎の侵入者が消えたと同時にライラの体が突然重くなったのだった。
出会い
哲史と幸子が吉凶混合の何だか危なっかしいトロピカルツアーを楽しんでいる頃、例のバーチャル空間では、ライラがこの間、具合が急に悪くなってこのバーチャルを落ちてしまった時以来、度々またぶり返し、具合が悪くなったりしていた。
今もそうだ、最近ではチョクチョクちょっとしたタイミングに吐き気がしたり、悪寒がしたりするようになっていた。
ライラは、“私ったら最近、度重なる変なやつらの嫌がらせのせいで鬱になっていて、それが体調にも悪影響を及ぼしているんだわ”と真剣に思い悩んでいたのだ。
さっき、吐き気止めを飲んだので多分これでしばらくは大丈夫だと思っていたが、なんとなく気だるく頭が重い感じはまだ抜けなかった。
その時だった、ライラの頭上で何か囁く声が聞こえてきたのだ。
その声は確かに『こんにちは・・・・w』と言っているように聞こえてきたのだ。
“えっ”とライラが思い辺りを見回したが、人っ子一人いないのだ。
それは、当たり前のことではあったが、ここはライラの自室で一人部屋だったのだから。
気のせいだと思い、またいつもの癖で陰謀集団の邪悪な仕掛けによっていつの間にか嵌ってしまっていた例のバーチャル空間に遊びに行こうと自分の机の上のパソコンに向かった時だった、と、その時、また今度はさっきよりハッキリと高いトーンで声が聞こえてきたのだった。
『私よ、わからない?うふふ・・・・w』
今度は含み笑いも一緒だった。
ライラはあまりの不気味さに不安になりまた具合が悪化しそうになったのだ。
必死で確かめるように
「あなたは、誰?何者?」
と問いかけたがすぐには返事はなかった。
考えても仕方ないので、きっと何かの空耳だと自分に言い聞かせ、気を取り直してまたパソコンに向かったのだった。
とその時だった、机に備え付けられている鏡にしっかりと自分の肩の上に誰かの手が掛かっているのが映っていたのだ。
しかも手だけではなかった、顔もその上に映っていた、その顔は、今まで見たことのないとても美しい少女だった。
髪の毛はセミロングでフワフワして見えた。
とても優しそうなエレガントな顔だったが、誰もいないはずの自室でこんな事が起きてしまった恐怖でライラは顔面蒼白になり言葉を失ってしまったのだ。
ハワイの旅先で、幸子と哲史は傍目には微笑ましいほどの仲睦まじいカップルに映っていたことだろう。
常に一緒に寄り添い哲史が幸子の肩を抱いたり、腕を組み合ったり、二人は、大変いいムードだったのだ。
哲史は、ビーチではパラソルのシートの上で寝そべりながら、ウトウトと昼寝をしていたのだった。
幸子も隣でノンビリと日焼け止めローションを顔や腕に塗りながら、のほほんと過ごしていたのだ。
初日は夜までは何もかも順調だったと言えよう。
ハワイのロブスター専門レストランで沢山のロブスターを食べ満腹になり、いよいよホテルに戻ると、例の幸子のあの飲みがまた始まったのだった。
やはりというべきか、誰もそれを止めることなどできなかったのだ。
哲史も例外ではなかった。
なすすべもなく幸子が厖大な量のビールをオーダーし浴びるように飲むのを呆然とただ見詰めているしかなかったのだ。
もちろんさっきのロブスター専門レストランやこれらの飲みの支払いもホテル代も含まれた今回のツアー代金もすべて哲史が支払うのだった。
まあ、哲史から誘ったのだし、当たり前と言えば当たり前なのだが。
憧れの哲史が好きな女優の松雪泰子にも少し幸子は似ていたので、哲史は今回一緒に旅行できたことが夢のように嬉しかったので、お金はいくら掛かろうが覚悟はできていたのだ。
まあ、幸子は松雪泰子の他にも故人タレントのOとかSにも似ているとモッパラの噂でそちらのファン達にも大人気らしいが。
と、その時だった、哲史が急に顔色を変えて、
「うぅ、腹がいてぇえ!!」
と叫んだのだった。
そして、そのまま、ホテルの部屋の中のトイレに駆けんだのだった。
幸子は心配そうに気を揉んだが、それもほんの一瞬のことで哲史が苦しんでいるのをよそにヒタスラ浴びるようにビールを呷っていたのだ。
スッカリ舞い上がって、突然の気候の変化に体がついて行けず健康を害したのか?それととも何かの呪いだろうか?
呪いならば、やはり義男なのか?!それは、考えれば考えるほど先の見えてこない迷路のような呪縛だと言えよう。
悲惨なことに哲史の腹下しは、ハワイにいる6日間の間ずっと続いたのだった。
「よう、義男!お前、さっき計画がうまくいくとか言ってたけどよぉ、俺にはとてもそんな風には思えないぜぇ、お前の思い過ごしじゃねぇか?」
哲史がせいいっぱい、照れくさそうに親しみを込めてそう義男に問いかけると
「平気だよ、最初の予定通り、幸子に旅行へ誘ってみな、きっとOKの返事をもらえるよ!」
とキッパリと言い切ったのだ。
その言い方は、あくまで絶対にうまく行くに決まっていると決め付けている言い方だったのだ。
哲史は、さっきの幸子の態度をみても、とてもうまく行くとは思えなかったが、信頼が置ける義男がそう言うのだから一応、その言葉を信用しようしてみようと思ったのだ。
「わかった、お前がそこまでキッパリ言い切るなら、今度、幸子を旅行に誘ってみるよ!」
「ただし、条件があるよ、バーチャルじゃなくてリアルで申し込むのだよ、そしてその時には、決してバーチャル空間の話はしてはいけないよ、それを守れば絶対にうまく行くと思うよ!」
「わかった、お前の言うとおりにするぜ!」
そうハッキリと義男と約束すると、その日はそろそろリアルでもやる事があると言う事で、二人はバイバイをしたのだった。
もちろん、またいつでも必要な時は、お互いにテレパシーで呼び合おうと言う事だった。
義男が言うには、テレパシー能力を自分の魔術で哲史にも授けて置いたので大丈夫だと言う事だった。
これで、いつでもこれから二人は好きな時に連絡を取れるようになったのだ。
哲史はその後、綿密に事前に義男と共に計画を練り、見事、外で偶然見かけた、―もちろん、待ち伏せをしたのだが―幸子に声をかけて喫茶店に連れ込み、そこで旅行の話をもちかけたらあっさりとOKの返事をもらえたのだからその手際よさには驚かされる。
義男の魔術の力ならその力は絶大だと言わなければならないだろう。
さらに、約束どおり決して例のバーチャル空間の話はしなかったのだ。
哲史は、話し方も意識して、いつもより少し丁寧にしたほどだった。
あっという間に旅行の日取りも決まり、哲史と幸子は一路、常夏の島、ハワイへ向かったのだった。
そして、幸子は旦那持ちだと言う事なので、アリバイを作るために、独身の伝言女性Aの携帯電話に二人で代わる代わる着信を小まめにいれたのは言うまでもなかった。
そして、何よりも一番驚かされたことは、伝言女性Aからプロ男を使って盗ませたパスポートを使って旅行をする事に対して幸子が何の躊躇いもみせなかったことだった。
幸子は、いつになくイライラしていたのだ。
それは、そうだ、常日頃から、リアルで陰謀集団から様々な嫌がらせを受け辟易としているところへ、さっきの哲史のような言いがかりを付けられれば誰だって気分を害してしまうのは当たり前だ。
哲史はその事に気づいたかどうかは謎だが、幸子の返答に対してすぐには言い返したりはしなかった。
だが、少し間を置いてからこう言ったのだった。
「お前、少しいい気になっているみたいだから、忠告しておいてやるよ、お前が何故、ここにいる羽目になっているか考えたことあるか?!気をつけないとこのままじゃずっとここから出れなくなるぜ!」
幸子はキッとなり
「大きなお世話です、あなたに何がわかるというのですか?!蹴りますよ!!」
と怒鳴ったのだった。
ここのバーチャル空間は親切なことに太文字に調整して怒鳴った感覚でチャットを楽しめるようにもなっていたのだ。
あっ、という間に哲史は幸子に蹴られてしまった。
蹴るとは分かりやすく説明すると部屋から追い出されることだ。
「あの女、話にならねぇなぁ、」
そう呟くと、突然、そのあと哲史は偏頭痛に襲われたのだった。
「うっ」
と思った時だ、懐かしい声が聞こえてきたのだ、それは義男の声だった。
「さっきのみてたよ、でも大丈夫だよ、計画はうまく行くよ」
「えっ!その声は義男じゃねぇか?お前、生き返ったのか?」
哲史がギョッとしてそう言い返すと、義男はまたあの半透明の上半身姿で哲史の前に姿を現したのだった。
「あぁ、というかね、僕は死んではいないのだよ、肉体だけが滅んだだけだよ」
「そうか」
哲史は少し驚いたものの、相変わらずの義男の諭すような落ち着いた話し振りに、突然の奇妙な再会に対する恐怖心も次第に消えていったのだった。