涼はまたかぁと思った。
次々と発覚する幸子の変態趣味に涼は驚きの気持ちを抑えきれなくなっていた。
今にも眩暈や憂鬱が発症しそうだった。
そして、幸子にまたしてもやられた気分になった。
心の中で何度も自分で自分に自問自答していた。
いつまでも永遠にみつからない答えを追い求めていた。
“それはないっすよぉお!これじゃ、幸子さんまるでただの変態じゃないっすか”
“もっとまともなデートコースってないんすか?”
声にならない言葉が脳裏を駆け巡った。
その想いを声にしてもよかったが、まだ涼はその言葉を発したために幸子とお別れに
なるのが怖かったのだ、なのでどうしてもそれは出来なかった。
そうこうしているうちにまたいつものように幸子の飲みが始まっていた。
例のごとく浴びるように酒を呷りだしたのだ。
いくども止め処なく、色んな種類の酒を(人はそれをチャンポンというが)とっかえ
ひっかえ注文して飲みまくっていた。
それらの酒類をサイダーかオレンジジュースのようにゴクゴクと飲み干していた。
誰もそれを止めることはできなかった。
止めようとするものすらいなかった。
なぜなら、幸子は酒を飲むといつになく上機嫌で、とても陽気になるから。
そんな幸子をみて皆、ずっとそのままの状態でいて欲しいと願ったのだったから。
上機嫌の幸子が涼のほうに向き直ってこう言ってきた。
「今日は、お迎えが来ますよ」
「お迎えって誰っすか?」
「あとでわかります」
それ以上は聞けなかった。
それ以上聞いてはいけないと感じさせるような幸子のキッパリとした毅然とした話しぶりだったのだ。
しかし、一体、誰が迎えに来るのだろう?涼は酔いを醒ます為にさっき注文してテーブルに届いたウーロン茶をごくごくと飲んだ。
どれくらい時間が経ったろうか?
幸子が店の公衆BOXに向かってから、かれこれもう40分近くは経ったと思う。
さっきのホストが気を使って話しかけてきたが、あまり耳に入らなかった。
幸子は誰といてもこのように電話で人を待たすのだろうか?
それに一体、誰と話しているのだろう?
実はこの時、幸子は別の男と話していたのだ。
それは夫ではなく、この間お見合い喫茶のビルの地下室でチークダンスを踊ったあの経営者だった。
ただその経営者だけでなく他にも、チョコレートボンボンをプレゼントしてくれる知り合いにおねだりの電話もしていたのだった。
やれやれ、まったく忙しい人だ。
「水割り、おかわりしますか?」
ホストがおかわりを促してきたが、涼は、それを手を振って断った。
涼は決して笊ではなかったから、続けて水割りを飲むのは少し苦しかったのだ。
「私のこと男だと思いますか?」
突然、妙なことをホストが言い出した。
男に決まっているではないか?どうみても!?
そこへやっと幸子が公衆BOXから戻ってきたのだ。
「お待たせしました」
「あらぁ、幸子さん!今ねこの人に例のこと話してたのよ」
涼はゾッとした、ホストの声色とか話し方が急に女言葉になったからだ。
例のことが一体、何なのかすぐには涼にはわからなかった。
するとそれを察したかのように幸子が涼にこうコソコソと囁いてきたのだった。
「ここは、普通のホストクラブじゃないって気づきませんか?」
涼はサッパリわからないといいたげに両手を肱から挙げてお手上げのポーズをとってみせた。
「ここは、おなべバーなんですよ」
その時、幸子の顔は満面の笑顔だった、これほどの笑顔はみたことがないというほど薄気味悪いほど煌き、輝いてみえた。
店の中は照明はそれほど暗くなかったが、鬱蒼とした、ある特殊な雰囲気に包まれていた。
なんといっていいか、例えれば、その雰囲気は、一種の得体の知れない微生物や黴が発生した感じにも似ていた。
別にこの店の中が汚いとかそういう問題ではなかったのだ、店の造りが古いせいだろうか?いわゆる雰囲気の問題であった。
目の前に店のホストらしい(?)者が現れて、馴れ馴れしい感じで話しかけてきた時も、涼はまだこの雰囲気に馴染むことができていなかった。
「何をお飲みになりますか?」
いつのまにか涼も幸子も店の中央のテーブルのソファに腰掛けていた。
その前に立ちはだかる様にホストが現れ、今まさにオーダーを尋ねてきたのだ。
「あら、お久しぶり!」
「お元気でしたか?この間はどうも、あ、やばい?」
な、なんとこのホストは幸子の知り合いらしい。
涼は特に対抗意識を燃やすことなく、二人の会話を横目で見ていた。
一体、何がやばいのだろうか?
涼に気を使っているのだろうか?
それなら心配などいらなかった。
涼は、とっくのとうに幸子ほどの女性が自分とだけ付き合っているとは思っていなかったし、まだ恋人にもなっていなかったので、幸子のことを自分一人に縛ったりはできないと思っていたからだ。
結構楽しそうに話している二人を眺めながら、涼は一人自分の世界に入っていった。
涼が頼んだカルアミルクが来ると、すぐ口をつけて、コーヒージュースのようにごくごくと飲んだのだった。
非常に喉が渇いていたのだ。
「あ、そうだ、ちょっと電話かけてくるから待っててね!」
そういうと突然幸子は店の中の公衆BOXのほうに向かっていった。
「幸子さん忙しそうだね、彼女もてるからね」
ニヤニヤと店のホストが笑いながらそういった。
そのホストの顔は丸顔でたれ目でまるでタレントの少年隊のフッくんに似ていた。
超かっこいいともいい難かったが、非常に爽やかで女性受けが良さそうなタイプだった。
幸子が掴んできた手を特に振り払うこともせず、涼は幸子の変態趣味にショックを受け、それと同時に自分の都合上幸子の涼の部屋へ行きたいという申し出を断ったもののその反面気分は上機嫌になっていた。
そのため幸子が片手でまだしっかりと抱えていたホモ雑誌をヒョイと指差すと、
「それ俺が買ってあげますから、今日部屋へ連れて行けないお詫びっすよ、いいっしょ」
とニカニカと笑いながら言ったのだった。
雑誌は全部で4,5冊はあった。
それを全部幸子から取り上げると涼はレジへ行きあっという間に清算をしてしまったのだ。
「どうも、ありがとう」
買った雑誌類を手渡すと嬉しそうに幸子が微笑んでいた。
「これから行きたいお店があるんですけどいいですか?」
また幸子がすかさずこう尋ねてきたのだ。
「いいっすよ、俺こう見えてもすごい暇なんすよ、お供しますよ」
とすぐに涼が答えた。
「これから行く場所は私のお気に入りの場所なんです」
「そうっすかぁ、いいすっねぇ」
幸子の後を涼がついて行くと、今度はさっきより少し広い通りに出たのだった。
そこは一風変わった景色だった。
特にどこがどうという訳でもなかったが、同じような外観の店が一列にずらっと立ち並んでいた。
かといってそれが商店街ではないのは一目瞭然であった。
どうみてもバーかスナックであるのは間違いなかった。
その中の一軒を幸子が指差した。
「あそこです」
そういうと幸子はまたスタスタと歩き出した。
「入りましょう」
たくさんのスナックかバーらしい並びから一軒の店を選んでその前に立つと幸子は涼のことを入るように促した。
店の中に入ると、その異様な風景に、ゾッとするものを感じずにはいられなかった。
とにかく何かこう普通とは違うことに涼は入ってすぐ気づいたのだった。
それは、突然の衝撃的な事実だった。
涼はその場に呆然と立ち竦み・・・・しばらく声を失っていた。
そ、そんな・・・・お嬢様のイメージとは随分違うなぁ。
まさか幸子さんがこんなエゲツナイ雑誌を読むことが趣味だったとは・・・・
そんな想いが涼の頭の中を走馬灯のように駆け巡ったのは無理もない。
ガックリと肩を落とした涼に向かって、幸子は、
「これから、あなたの部屋に飲みに行きます」
と突然、突拍子もないことを言い出したのだった。
しかし、今の心理状態だととてもではないが部屋に招く気にはなれなかった。
その上、涼の部屋は掃除がされておらず乱雑だったのでそれを幸子に見られるのも嫌なことだったから。
それに、女の方からいきなり、男の部屋へ上がりたいなんてちょっと女として嗜みに欠けるのではないかとも感じたのだった。
この時点で幸子は付き合っている男は涼だけではなかった。
他にも数名男がいたのだった。
これらすべて、例のごとく巷の出会い系やツーショットでひっかけた男達であったのだ。
従って、このように誘ったのはもちろん涼だけではなかった。
他の男達にも同じだったのだ。
ただそれは、それぞれには分からなかっただけだった。
しかし、幸子にあのように言われ、とりあえず拒否はしたものの男としてそう言われて本心から嫌な気持ちになるものはいないはずだ。
据え膳食わぬは男の恥というし。
涼もそうであった。
なので、すぐに部屋に招く気にはなれないものの少し気分が舞い上がった状態になったのは否めなかった。
だが、あの汚い部屋に連れて行けるわけもない。
「ちょっと俺、今部屋汚いので・・・・・また、今度でいいっすか?」
「そうですか、残念ですね」
そういいながら幸子の右手は涼の左腕を掴んでいたのだった。
男として涼はとてもゾクゾクした気持ちになったのだった。