路地の曲がり角をスタスタと幸子が進んでいった。
そして、ある地点まで進むとピタッと止まった。
その地点から幸子が振り向いた先には、何やら店のようなものがあった。
その店は内部から煌々と明かりを発していた。
「この中に入りましょう」
ニッコリと幸子が涼のほうに向き直って微笑んだのだった。
「なんすか?ここは?」
それには答えずスタスタとまた幸子が店の中に入っていった。
店に並べてあるものをみるとどうやら大人のおもちゃのようなものを取り扱っている店だということにすぐ涼は気づいたのだった。
幸子は店の商品棚の一番表通りに近い場所に羅列してある雑誌類を何冊か手にとって眺めていた。
―それは、驚異的な瞬間だった。ま、まさかとこの時、涼は想ったのだった。―
その雑誌類の表紙にはセミヌードやピチピチのビキニパンツ一枚の少年の写真が載せられていた。
そして表紙のその少年はまるで媚を売るような視線だったり、俯き加減で他の少年と戯れ絡んでいたり、または、大人の女性ではなく男性と見詰め合ったり、絡んでいたのだ。
これは何かの間違いではないか・・・w
一瞬、寒気がゾクゾクと涼の背筋に走ったのだった。
青ざめている涼にやっとその時気づいた幸子が振り向いてこういってきた。
「驚いちゃったんですね」
幸子はそういう間も始終ニコニコしていた。
そもそも幸子という女は、常に微笑んでいる習性があったのだ。
それは、そういう性質だったといえばそれで終わってしまうことだったが。
「幸子さん、これは一体!?」
「モーホーの本です、私、モーホーの雑誌見るの好きなんです、おかしいですか?」
真顔でそう答える幸子に対して涼は何も言い返すことができずただ呆然とその場に立ち尽くすだけだった。
その時、相変わらず深夜過ぎの都会はキラキラと明るく、眠らない街らしく、まだ、人通りも多かった。
続きはこちらで→ http://www.digbook.jp/product_info.php/products_id/11482(只今、電子本発売中!!)
「お待たせしました」
スッとした表情で、爽やかな幸子の声が聞こえてきた。
気づけば幸子は同じテーブルの向かい側の椅子に腰掛けていたのだ。
「幸子さん、待ったすよ、俺・・・」
待ったとはいってもまだ0時から15分くらいしかたってはいなかった。
「あら、でもまだそんなに時間はたってなくってよ」
そういわれてみれば確かにそうだったが、たったの15分間が涼にとってはとても長く感じられたのだった。
そもそも、涼は待たされることがあまり好きではなかったのだ。
しかし、ここであまり目くじらを立ててせっかく出会ったばかりの幸子に嫌われてしまうのも辛かった。
なので、グッと堪えて涼はすぐ話題を変えたのだった。
「これからどうするっすか?」
「私が知っている場所でいいですか?」
やけに低姿勢に幸子が返答してきた。
幸子と涼の関係はどう考えても涼のほうが夢中ではあったが、それに対して少しも付け上がることなく幸子が低姿勢にそう尋ねて来たことが涼には大変心地よく嬉しく感じられた。
「もちろん幸子さんの知っているとこでいいっすよぉ」
この会話のやり取りでこれからの行き先が決定したのだった。
要はこれからいく場所は、幸子にお任せのコースということなのだ。
幸子は自分は喫茶店でオーダーすることなく、すぐ目的の場所へ行こうと言い出した。
もちろん涼は一応オーダーをするかどうかは尋ねたのだったが。
喫茶店を出ると、風が少し吹いていて寒気がしてきた。
確かにこの時、季節は冬だったので、いきなり喫茶店から出て、風が吹きすさぶ表にでると、とても寒く感じられたのだ。
幸子が着ている黒い膝位までのハーフコートが、目の前をぐんぐん進んでいくのがみえた。
幸子は、意外に早歩きなんだなと、その時、涼は思った。
「まだあるんすか?その場所までは?」
「あと、もう少しですよ」
15分くらい歩いた頃だったろうか、さっきの喫茶店の通りに比べたら少しばかり狭い路地のような場所が現れたのだった。
憩いの時間
―ある日の深夜0時の都内の某喫茶店でのことだった―
涼はその時、喫茶店で生クリームがたっぷりと入った、熱いミルクココアを飲んでいた。
喉が渇いていたせいもあって一気に飲んだので、口の周りにクリームがついて白くなったのだった。
そんな涼の姿をみつけてクスクスと笑う者が少しはなれたテーブルから現れたのだった。
その時、涼は何だか知らないがとても惨めな気持ちになった。
恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだった。
やっと気持ちが落ち着くと、涼は今度は携帯のメールのチェックに取り掛かりだしたのだ。
「あれぇ、ねぇなぁ、幸子からのメールこねぇなぁ」
とうとうボヤキが出てきた。
もう待ち合わせの深夜0時から5分過ぎたが、幸子はまだ待ち合わせの喫茶店に到着していないのだった。
身に付けていたクリーム色の袖のカワキ色のスタジアムジャンパーを脱いでから、自分が座っている椅子の背もたれに掛けると、涼は椅子の背もたれに仰け反るように大きく伸びをした。
その時、携帯はテーブルの上に無造作に置かれたままだった。
“まだ5分しかたってねぇし、たぶんもう少ししたら、来るよなぁ”
涼はそう思うとまた幸子と会える喜びが心に溢れ、わくわくドキドキしてきた。
その時に、真実を何も知らない涼は、幸子が主婦業に勤しみながら、旦那が夜勤の頃合を見計らって待ち合わせ場所に向かっていたと、思いつくことができただろうか?
それは、どう考えてもできる訳などなかった。
幸子の口から、ハッキリと彼氏はいないと聞いていたし、また“結婚はしないのですか?”と質問をした時も、
「私は御茶ノ水女子大を卒業しました、なので私と釣り合うのは東大卒の人だけです、東大卒の人でなければ結婚はしません」
とキッパリと言い切られていたのだ。
ということはまず自分では絶対無理なのだ。
涼は高校卒業だったから。
しかし、それはわかっていたが、デートの初日からあれだけ奢らされて、しかも彼氏はいないことは確かなのだ。
涼にもまったくチャンスがないわけではなかったので、頑張ろうかなぁと思ってしまったのだった。
それにまだまだ結婚を考えたいわけでもなかったので、とにかく一緒にいるととても楽しいと感じた幸子とまた会いたかったのだ。
と、その時、喫茶店の扉が開く音が聞こえた、涼が扉の方に目をやると幸子の姿がそこに現れた。
幸子は指輪のサイズは7号であった。
自慢のその細い指を空に翳してみては、幸子の得意の“おほほ”と笑っていた。
ある時、幸子がデートの相手の前でシルバーのリングをした指をチラつかせて薄ら笑いを浮かべていた姿がまるで昨日のことのように頭の中に彷彿として蘇る。
その姿をみて素直に感銘して指輪をプレゼントを贈りたいと思う者もいれば、“いい加減にしろようす気味悪い”と思った者達も多かったことだろう。
幸子は自分は編集者に勤めていて、将来は小説家志望であり、仕事をやめたのちは銀座でアルバイトをしているとしきりに出会う者達に豪語していた。
そんな彼女の夢を叶えてやろうと、必死にアルバイトや会社で稼いだ金を図書券に換えてプレゼントに励む輩も多かったことだろう。
また無類のゲーム大好きっ子だった幸子は、魔界転生や、その他訳の分からない、プレステーションもののゲーム類を集めまくっていたのだった。
そんな彼女を喜ばそうとこれまたゲーム類のプレゼントに励む者たちも絶える事はなかった。
問題は、やはり、その人数がまるで鼠講のシステムのごとく増えすぎて、気づけばある一つの会社や組織を乗っ取るほど増えてしまったことだった。
こうなるともう会社を乗っ取られるかどうかの問題にまで発展するのは目に見えていた。
最悪なことといえば、部下までならまだしも、その組織や会社の上司連中にまで幸子が浸透してしまってきているという恐ろしい事実が浮かび上がってきたことだった。
さらには、あんな浮気で不埒な性悪な付き合いをたくさんしてしまったせいだろうか?
おそらく現在旦那がいるとしたら、その旦那は紐的要素が大変強く、結婚したからといって真面目に主婦業だけに勤しますことはなく体裁があるので表立って、水商売などで働かしたりはしないが、声だけのバイトや、
今、流行のバーチャル空間内に閉じ込めて自分の働く組織の上司の接待や、お得意様の相手をさせている事も多々あるのではないかと懸念される。
まさにこの妻にしてこの夫ありではなかろうか?
狐と狸の騙し合いのような夫婦の姿がここでもまた浮き彫りになるのだ。
愛憎による執念だけが二人を結び付けたのか?
それだけが絆になり、妻の無くなる事のない浮気に耐え忍んでいたのだろうか?
幸子に彼氏はいないとか独身だと囁かれスッカリと騙され、幸子に心から陶酔し、恋をし、それによって貢ぎ、二人の将来を夢見て投資をして馬鹿をみたことを今更のように悔やんで恨んでいる者たちは想像を絶するほど多いのではなかろうか?
これは現代の我が国、日本において真剣に考えなければならないテーマの一つではなかろうか?
そんな風に感じる今日この頃だ。
家庭を忘れ夫を忘れ、家事や炊事を忘れ、幸子は毎週のように夜な夜な、盛り場へ足を運んだ。
もちろんこの間、知り合った涼とも会ってはいた。
しかし、今回は違うお相手であった。
お相手は、お見合いパブや不動産を経営しているような、立派な男性であった。
また、相手は面長で、背の高い温厚そうな紳士だった。
実は幸子はこの男性にプロポーズをされていた。
幸子も決して嫌な顔はしなかったが、妻である身の幸子がこの男性の申し出をすぐに受け入れるわけにはもちろんいかなかった。
「あなたは優雅だ、一緒に暮らしたい」
確かにその経営者は幸子にそういったのだ。
幸子ももちろんそのプロポーズに悪い気はしなかった。
だが家庭をすぐ捨てる訳にも行かなかった。
それに、その時点で夫がいたかどうかも今となっては分からない事であるし、いたとしても、別れるほど仲が悪かったわけではないと思うから。
今回のお相手の経営するお見合いパブの地下室で、今にも頬ずりをする勢いで、幸子にその経営者は擦り寄っていた。
その地下室では透明の冷蔵ケースにバドワイザーがたくさん用意されていた。
幸子は当然のように飲み漁りだした。
それをみてもここの経営者は一言も怒ったりはしなかった。
むしろニコニコと微笑んでその光景を眺めていた。
「好きなだけお飲みなさい」
その経営者は非常に温厚に幸子に対してそう言ったのだった。
しこたまバドワイザーを飲んだ後、店内の音楽に合わせて二人はチークを踊りだした。
バドワイザーのお礼だろうか、優雅な足取りで二人は寄り添いながらチークダンスをしだしたのだった。
原型がまるで土偶のはにわ顔であっても化粧映えのする幸子の顔をこの経営者は嫌いではなかった。
プロポーズするくらいであるから、この経営者だって幸子が結婚をしていることにはまったく気づいていなかったろう。
また知っていたとしても自分の経済力だったら簡単に奪い取れるという自信もあったのかもしれない。
そんな彼のことを幸子が頼もしいと思ったのかどうかはわからないが二人は結構、でった当時は頻繁にデートをしていた。
また経営者の自宅にもしげしげと通った事さえあった。
それを愛と呼べるかどうかはまた別問題だとしても男を次から次へと蝶のように舞い飛ぶその行動がまた都会の奇怪な風物詩として語り継がれていくようになったのはいうまでもない。