この段階で、これを読んでいる皆さんは何かに気づかないだろうか?
気づいていないかもしれないが、そのことは何かというと、涼という男性はホストで働いているわけでもなく、普通の会社員だったけど、片や伝言ダイヤルの女性は接客業で働いていたという相違の事だ。
つまり、何が言いたいのかというと、伝言ダイヤルの女性は接客業で働いていたので、幸子との交際費を支払うのがその当時はそれほど苦ではなかった、というかまったく苦ではなかったけれど、涼の方は普通のサラリーマンだったので、物凄く奢らされた上に急に連絡が取れなくなったのが物凄く辛かったという点だ。
涼はとても損をした気分になって悔しくなったんだと思うのだ。
そして、この頃からだろうか?日を追うごとに、テレクラとか伝言ダイヤルで幸子と知り合った誰もが幸子と合う回数を重ねるたびに幸子のことを知っているらしい人物と鉢合わせになる回数が次第に増えていったのは。
それはまるで幸子という都会の魔の媒体菌が知らない間にじわじわと乾いた大都会のアスファルトに急速に浸透していくような現象だった。
幸子の話が本当なら幸子が勤める出版社の取引先の人間も幸子というこの魔の媒体菌に既に身も心も、さらには骨の髄までも犯されてしまったのだろうか?
しかし、現在とは違いその頃は幸子の他の知り合いとバッタリ鉢合わせになって目があっても皆、笑顔であったし、人を睨んだり、異様に敵対視するものもいなかった。
従って、恐ろしい復讐集団と化して組んだ、別口の怒りの大魔神のような組織が地下奥深くの水面下から鼠講のように膨れ上がって湧き上がってきたのは、まだその先のことだったと思うのだ。
本当にそうなるまでには、もっと時間がかかったし、最初からそのような状態であったら、伝言ダイヤルの女性も怖くなってしまって幸子とそんなに何回も会うこともなかったと思うのも事実だ。
男心ならず女心まで両方を手玉に取り、チョコレートのおねだりを頻繁に重ね、そのついでに厖大な飲み代金を払わせたり他の物品も次々買わせていく、そんな手口を繰り返しながら幸子は眠らない街、新宿に不幸を呼ぶ不死鳥の如く君臨していたのだった。
他にもそういう代名詞がつくくらい新宿の名物になるような女性はおそらく沢山いたことだと思う。
だが、私が知っている悪玉は、あの街では幸子とあと数名で、もっとも記憶している事柄が多いのがやはり幸子なのだ。
主婦なのに主婦じゃないと言ったり、女にしか興味がないと偽ったりと、それはたいした問題じゃないようで物凄い悪質な詐欺だと思うのだ。
相手の心と時間を思いっきり奪っていて本当に身勝手この上ないと思うのだ。
まさに信じたものが馬鹿をみるという世界だ。
それにまだ涼の場合は半年くらいで縁が切れたのだからよいほうだった、金をもっと持っていそうと思えばまったく気がなくても好きな振りをし続けどこまでも相手を引っ張り付き合い続ける悪魔のような女それが幸子なのだから。