ベティさん危機一髪
それは、ある日の夕暮れ時の事件であった。都会近郊の割合静かな閑静な住宅街での出来事であった。
その日もいつものように仕事帰りにベティさんは、近所のスーパーに寄って買い物をしていたのである。このあと何が起こるかも想像もつかぬままに・・・・。「今晩のおかずは何にしようかなぁ」「たらこを買おうかなぁ」「それともやめようかなぁ」あれこれ迷ううちに、焼肉のたれのコーナーに辿り着いたのであった。思わず、ベティさんの顔が微笑みで満面になり、眉は垂れ下がり、目はすぼまってなくなり、ほっぺたはみるみるピンク色に染まり、膨れ上がりいまにも零れ落ちそうなほどの状態になったのであった。いわゆる口から、よだれがでてもおかしくない状態であった。そうなのである。彼女は焼肉が大好物であったのであった。だからこのような現象はしかるべきことであり、条件反射とも受け取れるものである。しごく当たり前の日常の出来事といえよう。
そして、彼女は即座にその目に入った焼肉のたれを、スーパーの買い物籠に放り投げたのであった。そのあとは、当たり前であるが焼肉の肉を買ったのであった。カルビ、ロース、ミノ、塩タン、ユッケ目に付いたものそのまま手当たり次第、買い物籠へ投げ入れたのであった。まさに投げ入れであった。そして、焼肉と同様大好きなビールも焼肉の分量に見合うだけ買い物籠に入れたのであった。ベティさんは、少し慌てていた。すぐに準備を整え帰宅し、早く食卓にありつきたかったのであった。上品な彼女のその様相からは想像も附きかねる有様であった。
実際彼女は上品であった。服装こそジーンズにカットソート地味目ではあったが、その面立ちは、公家顔であり、今でこそ栄養をたっぷりと取りすぎて膨らみ、丸顔にみえるが、もとの原型は瓜実形の面長であった。眉も綺麗なアーチ型で、均整の取れた端正な顔立ちである。体型も今でこそ、たわわに膨れ上がり、大きな風船のようであるが、若かりし頃は、スレンダーで通っていた。彼女は今では年のころは、ちょうど三十路後半であろうか。この街でも有名な美女であった。外を歩けばみなが振りかえるのである。ロングのソバージュの髪はみんなのベティさんに見惚れた、熱い視線に気づき、振り返るたび、風に靡いていた。
そして、本題に戻ろう。
すっかり満足いく形に食材が買い物籠に揃うと、早速彼女はレジに走り清算をすませ、帰宅をしたのであった。
無事帰宅を終えると、玄関から、台所に向かう途中ベティさんは鼻歌を歌った。「わたしのぉ~~!いい人連れてこぉ~~い!!♪」他人様が聞いたら思わず笑いが聞こえそうであるほど、その鼻歌は愛嬌に溢れ、たわいないありふれた乙女心を歌ったものであった。
「さあ、これから自慢のお得意の焼肉をつくるぞ!」と自分に言い聞かせるようにつぶやくと、・・・・・と、その時であった。
「おらぁ~~~!!」と男のどら声が真後ろから聞こえたのであった。ぎょっとしてベティさんが振り返ると、そこには黒の上下のスゥエットを着た、これまた黒い毛糸の目だし帽を頭からすっぽりかぶって顔が見えない不気味な男が立っていたのであった。スタイルは割りに小柄である。「おかしいわ。鍵はきちんと閉めて出かけたはずなのに・・・!」そんなベティさんの想いも他所に、男は、ベティさんに刻一刻とジリジリとにじりよりながら、「おらおら!!」「往生しいや!!」とがなりたててきたのであった。「私まだ死にたくないわ!」ベティさんがその可愛らしいほっぺをプルプルと震わせながら今にも泣きそうになってそう叫ぶと、男はますます声を張り上げ、「いい子でいなやぁ~~!!」「相手をしなやぁ~~~!!」と怒鳴りだしたのであった。
もうここまで聞けば分かるであろう。これは単なるもてない男のレイープ願望であった。この街でも指折りの美女であったベティさんを前々から計画的に狙っていたのは一目瞭然である。
それからは想像を絶する地獄絵図の阿鼻叫喚の状態であったのである。これ以上書くのもおこがましいのであるが、ここまで書いたら書かないわけにはいかないそういう義務感もあるので、きちんと書くことにする。
な、なんとそのおぞましいレイープ願望男は、臭い息を当たりに吹きかけながら、汚い唾をペッペッと当たり一面に撒き散らしていたのである。「うぉ~~!うぉ~~!」と雄たけびをあげながら、そしてついにはベティさんに襲い掛かったのであった。それからの状態は次のようであった。
男の目の前で、のた打ち回って、泣き叫ぶベティさんのことを、後ろから、ふん捕まえて、髪の毛を鷲掴みにしながら、部屋や廊下の上を引き釣り回して、彼女の身につけている衣類をずたずた引き裂き始めた。あわやベティさん危機一髪と思いきや、すんでのところで、ベティさんが腹で男を思いっきり突き飛ばしたのであった。それは一瞬の出来事であった。男がベティさんを引き釣り回している最中にベティさんが突然すごい勢いで振り返るとその反動でまともに彼女のパンパンに腫れ上がった風船腹が男の二の腕にモロにあたったのであった。そのとたん男は激しい痛みが腕に走り、全身から力が抜け、「うぉっ!!」と呻いたあとにベティさんの体や、髪の毛を掴んだ手を思わず離してしまったのであった。さらにベティさんがアッパー攻撃をかけると、男の顎はぐらつきたじろいで男は後ろに倒れてしまったのであった。なんという怪力・・・!!「うぅ!・・」と男が呻いている間に、ベティさんは命からがら、隣の民家に一糸まとわぬ姿で逃げ込み(悲惨なことに、男はレイープ目的だったために、ベティさんは、引き釣りまわされている最中服を引き裂かれ脱がされたのであった。)驚いた隣の民家の住人がベティさんを部屋の奥へ通し毛布に包ませてから、警察に通報をしたが、時すでに遅く、犯人は逃走したあとであった。
そして、いまだ犯人は捕まっていない・・・・