ユミコの手は鷲掴みにされた髪の毛から離れ、既に幸子は自由の身だった。
幸子の服装は白い丸襟のブラウスに黒のタイトスカートと地味だったが、ユミコに突如襲われた為か、ブラウスの襟元は乱れ、左肩は半分露になっていた。
さっきまでの恐ろしい出来事の恐怖の為にその顔は苦痛で歪んでいるように見えた。
ユミコはと言えば、先程、突然座り込んだまま、放心状態のようだった。
無論、そういう状態に陥ったのは、幸子の体の中に義男の‘愛しい者’が入っていた瞬間に体調に変化が現れた為であった。
ユミコの体は突如金縛りにあったように全身が痺れて力が抜けて体が動かなくなってしまったのだ。
義男の‘愛しい者’が入っていった体は確かにユミコではなく幸子のほうではあったが、何故かユミコが突如体調に異常を来たし崩れ落ちてしまったかのようだった。
そして、それと同時に宙に浮いていた哲史の体が2,3回大きく揺れてから床に落ちてしまったのだった。
幸子の自室の床上1.5m位から落ちたので、そのせいで哲史は足を挫いてしまったのだった。
「うぅ~~!!いてぇ~~!!!」
哲史が悲鳴を上げると、幸子が驚いたように振り返り
「大丈夫ですか?!」
といいながら駆け寄っていた。
ロマンスの炎
義男は男として少し嫉妬に苦しみショックだったが、ユミコのこともとても気になるのでここはグッと堪えたのだった。
その時、ユミコは既に手に掴んでいたキラキラと光る杖を床に落とし、力なく頭を垂れ、全身をだらんと投げ出した状態で前向きにつんのめる様に倒れていた。
なので、義男も半透明の上半身姿のまま幸子達に負けずにユミコに向かっていったのだった。
「大丈夫かい?!苦しいのかい?」
そういいながら、義男は半透明の手でユミコの左手首を握り締めながら脈を確かめていた。
「あぁ、よかった!どうやら、脈は正常のようだね」
まるで、星の王子様のように凛々しく雄々しい義男がユミコの手を取りながらそう言う姿は、一国の王女を危機から間一髪で救い出した偉大な勇者のようであった。
「ひゅぅ~!ひゅぅ~~!!よう!お二人さん!お似合いだねぇ~~!!!」