「ユミコさん!目を覚まして!!」
必死で意識を取り戻しかけているユミコに対して幸子がそう呼びかけるとユミコはカッと見開かれた瞳孔を幸子のほうに向けた。
幸子は一瞬、とても恐ろしくなり、怯えたが、今はそんなことを言っている場合ではない、ユミコを救わなければと懸命に考えていたのだった。
とにかく何とかユミコの意識を取り戻さなければと思い、悪いとは思ったがユミコの頬をピシャリと引っ叩いたのだ。
「おい!幸子、ちょっと乱暴じゃねぇかぁ~~!!しばらく放って置けば、きっと目を覚ますぜ!!なっ、ほっとこうぜ!!!」
哲史は、新しく登場した義男の‘愛しい者’が幸子の体に入った際に、原因不明でユミコの邪悪な魔術によって宙に浮かされていたその身が突如落下した為に挫いて痛む足を床にしゃがんで、ずっと両手で摩っていた。
「おぉ、それにしてもいてぇ!!骨折でもしたかなぁ?!」
ユミコは脈は正常だったが、以前意識は戻らないままだった。
しかし、男というものは、あれほど邪悪な魔術で襲われようとも相手がユミコのような美女だと遣っ付けてやろうとまでは思わないのだろうか?
だとしたら、男という者は本当に業の深い、煩悩の塊と言うべきではなかろうか?
無論、この物語のタイトル自体、‘詐欺常習犯’と言う言葉が使用されているくらいだから、特別、業の深い者達が暗躍する物語なのであろう。
なので、理屈では罰さないといけない相手なのに相手がとても美しかったりすると見え透いた手口の詐欺でも簡単に引っかかったり、入れあげた挙句、全財産を失い、路頭に迷ったりするそんなレベルの者達が活躍する物語なのだとタイトルから想像できるのだ。
既に、この段階で、過去、幸子に騙され続けた男たちが各メディアや宣伝媒体で幸子が義男が推薦する例のバーチャル空間に、いつも居ると知りワンサカ詰め掛け、その人数はもはや厖大に膨れ上がっていた。
つまり、この瞬間にも、その例のバーチャル空間に幸子のアバターが来ていないだけで、イライラして動揺して騒ぎ出す者達が後を絶たなかったのだ。
『幸子、今頃何してんだろうなぁ、まさか他の奴と楽しんでいるんじゃないだろうなぁ・・』
『ここなら幸子に会えるって聞いたから来たのにいないみたいだな・・詐欺だったのか?!』
などなど、口々に不信や不満の声を挙げる者達が後を絶たなかった。
もうまともに付き合えることなど二度とないとは分かっていたが出来るだけ長くここに幸子を監禁して、自分が誰だか悟られることなく好きな時にいつでも会いたいと考えている奴らが、このバーチャルの桃源郷にごった返していた。
狂ったようにここに通うもの達はあの15人とそれプラスの仲間達と同じく、集団で組んでいる者達も多く、15人とそれプラスの仲間達とはグループこそは違ったが、会社帰りに交替で、幸子がどこにも出かけないように見張ったり、プロに依頼して、幸子の自宅の周辺で事件を起こしバーチャル監禁活動に励んでいた。