その時だった。
幸子が、ユミコの右側の頬骨のあたりから口元にかけて赤い細い筋が頬のラインを伝って流れ落ちているのを発見したのだった。
その赤い筋は、明らかに人間の血液だった。
「あら、いけない!さっきあなたが気絶して倒れたものだから心配で心配で、目を覚ましてもらいたい一心で少し強く打ちすぎちゃったみたいだわ!」
そういいながら、幸子は自室の隅においてあるエンジ色バッグの中からお洒落な花柄のハンカチを取り出すと直ぐにユミコの右頬に当てたのだった。
勿論、頬を伝う血を拭う為だった。
ハンカチは頬に当てた部分が、あっという間に真っ赤な血の色に染まっていった。
「私、感覚がないみたい、少しも痛みを感じないのよ!記憶も少し消えたし、どこかおかしくなっちゃったのかしら!!」
ユミコが困惑した表情でそう言うと傍で聞いていた義男がこう言った。
「おぉ、おぉ、可愛そうに、後で痛くなるよ、僕の術で治してあげよう」
そう言うとまた義男は半透明の上半身姿のまま、両方の掌を胸の前で組んで呪文をブツブツと唱えだしたのだ。
すると、どうだろう、たちどころに、ユミコの頬の血が引いていったのだった。
そして気づけば頬は元の状態に戻っていた。
「ありがとうございます!!」
本当に親切で頼もしい義男に対してユミコは心からそう感謝したのだった。
そして、それと同時に義男のそのチャーミングな笑顔に心トキメキぐんぐんと惹かれていったのだった。
哲史も、いつの間にか話の輪に入ってきた。
「おい!心配したぜ!!さっきはどうなることかと思ったぜ!!!」
と、とても嬉しそうに瞳を安堵の色に輝かせていた。
「あぁ、でも私、そろそろ、色々とありすぎたので疲れてきちゃったわ!!」
それは、無理もなかろう、短い時間に、あれ程、沢山のいろんな出来事があった後なのだ、誰でも疲れ果てるはずだ。
「なら、僕と哲史君は帰るけど、今日は、ユミコ君は幸子君の部屋に泊まって目が覚めたら例の場所で落ち合おう!!」