義男は、哲史が、突然のアクシデントで、幸子の自室の宙から落下してしまった為に、足を挫いて痛めてしまったのを気遣い、タクシーを幸子の自宅の前に呼ぶことにした。
そして、タクシーを呼び、到着を確認し、さあ、帰ろうという時だった。
その時、驚くべきことが起こったのだ。
な、なんとユミコが、栗色のフワフワとしたセミロングの髪の毛を振り乱しながら、立ち去ろうとする義男達に向かって駆け足で向かって行ったのだった。
そして、半透明の上半身姿の義男の後姿の目の前まで辿り着くと、ヒョイッと義男の背中にイキナリ抱きついたのだった。
「待って下さい!!どうしてもお礼をもう一度言いたくて・・・そして、出来たら、また会って欲しいなって・・・・思って、お願いします!!また会って下さい!!!」
それは、とても大胆で情熱的な告白シーンだった。
義男の背中に抱きついたといっても、義男は、もはや肉体のない身だったので、そういう 気分に浸って一人ジェスチャーに走ったという表現が正しいかもしれない。
其れほどまでに、優しくて頼もしい義男に心から恋をしてしまったと言えば良いのだろうと思う。
体の無いことなど、まったく気にならないほどにユミコの心は熱く激しく燃え上がっていた。
もはや、義男なしではいられない程に。
義男も男として、据え膳食わぬは恥というものだし、気持ちは多いに揺れまくったのだった。
肉体の無い身だと言うのに、己の身の内には熱い血潮が逆巻き、逆流していた。
「あぁ、構わないよ、君がそう望むのなら、また会おうね、ただ明日は、いつもの場所で会おう!他のみんなと会う約束をしているものでね!今度、二人でユックリと会おうね!!」
誰もいいムードの中の二人を引き裂くことは出来なかった。
あの幸子でさえ、義男がとても素敵な男性なので悔しいなとも感じたけど、ユミコの素直で情熱的な態度には感動して思わずエールを贈りたくなったほどだった。
“頑張れ!ユミコ!!”本当に心からそう思ったのだった。
義男は優しく、ユミコの自分の半透明の上半身姿を抱きしめている手を握り締めると
「明日が楽しみだね!みんなとも話そうね!!」
と相変わらずのジェントルマン振りを振舞った。
それから、そっと優しくユミコの手を振りほどくと哲史と共にタクシーに乗り込んだのだった。