幸子は、突然襲って来た、心臓の小刻みな高鳴りの連打に不安と恐怖の思いを隠しきれず、また顔が青褪めていった。
“私ったら、まったく、どうしちゃったのかしら・・、またこんなに突然に具合が悪くなってしまうなんて・・これもユミコサンの呪いのせいだと言うのなら、キチンと話し合って原因を確かめたほうがいのかしら・・”と真剣に思い悩んだのだった。
そんな幸子のことを他所に、ユミコはサッサと一人、デスクの上のパソコンに向かって、例のバーチャル桃源郷に向かうログイン作業を始めていたのだ。
「さあ、これでいつでも入れるわよ!」
パソコンのディスクトップのエクスプローラーのサイト上にバーチャル桃源郷の画面が開き、準備OKになると、ユミコは幸子に明るくそう呼びかけたのだった。
幸子は戸惑いながらも思い切ってユミコにこう問いかけた。
「ハッキリさせたいのだけど、私ね、あなたの知り合いとか本当に誰も知らないのよね、だからもしそう思っているのなら誤解を解きたいのよ!」
するとユミコは驚いたように目を丸くして
「誰もそんなこと思ってないわぁ~!この間はごめんね!!言い過ぎちゃったみたい!」
と信じられないくらいにとても優しい態度だったのだった。
というか、前の時とは状態が違い、今では幸子の体の中には、義男の‘愛しい者’が宿り、確かに何かが芽吹いてきている状態なのだ。
なので、この間、幸子の体の中に‘愛しい者’が入ったその瞬間にユミコが気を失ってしまい、その後、心配をする幸子にしたたか顔を打たれ目覚めたことを義男と哲史に聞いて知り、とても気に病み、そしてまたしても今現在、今度は幸子の方が、こうやって具合が悪くなってしまった事を本当に自分と幸子は、何かに祟られていると感じノイローゼになりそうだった。
ユミコは気を失った時に幸子に平手で両頬を打たれまくったと言う事実は記憶に無かったとしても、知ってしまった時は、やはりショックだった。
ユミコはその時点で自分は絶対に幸子には勝てない、太刀打ちができないと思ったのだ。
だからこれから先、いかなる場合であっても幸子に対しては何も余計な事は言うまい逆らうまいと心から硬く誓っていたのだった。
「私の方こそ、疑わすような態度とってしまったなら謝ります、ごめんなさい」
「うぅん、そんな事ないから絶対に心配しないでね!疑ってないからね!!」
この会話の時点で、心臓のバクバクしたザワメキは大分収まっていた、義男から授かった‘愛しい者’が何かを察し、興奮していた気持ちを静めたらしかった。