涼の姿が突然消えたのは、明らかに幸子がバーチャルルームから追い出す為にこのバーチャル桃源郷の世界にある機能の一つの気に入らない相手を部屋から追放する“蹴る”という機能を使って蹴った為であった。
それで、涼の姿は、あれよ、あれよという間に一瞬で呆気なく掻き消えてしまったのだ。
まさに、吹けば飛ぶような一幕の茶番劇だった。
「ほほう、随分と手荒だね、もっと彼の事を歓迎してあげても良かったのではないかな?」
相変わらず常に冷静で真摯な義男らしい言葉だ。
「いいえ、アイツには、あれでいいんです!」
それに対して、氷のように冷たい面持ちで幸子はそう言い放った。
勿論、その表情はリアルの幸子の表情のことであるが。
ところで、涼は幸子に冷たくルームから追放された後、一人、自分専用のバーチャルルームで悔しさに憤りながらぼやき続けていた。
「畜生!やっと幸子の事を見つけたって言うのに、あの態度はないっしょ!俺を知らないなんていいやがって、ヤッパリそういう女っすかぁ・・・」
そういいながら、激しい復讐の炎で瞳は赤々と燃え滾っていたのだ。
勿論、それはバーチャル桃源郷内のアバターのお面の瞳ではなく、リアルの涼の生身の顔面の瞳の炎のことであったが。
無理もなかろう、一年半くらいの付き合いではあったが、可也の大金を使わされたし、あちこち振り回されたのだ、悔しさも一入なのは当然であろう。
今頃、さっきの自分を追い出したバーチャルルームで幸子が自分の事を嘲笑っているかと思うと大変胸糞が悪かったのだ。
しかし、泣き寝入りする気など涼には毛頭なかったのだ。
既に水面下では、例の15人とそれプラスの陰謀集団と共に着々と復讐計画が進行していたのだ。
あとは邪悪な陰謀仲間で編み出した綿密な復讐プランに沿って動いて行くだけでいいのだから。
まず、その復讐プランの手始めの第一歩は、ここに追い込んで閉じ込める事であったし、それは見事成功したのだった。
そして、次の計画だが、それは今、流行のネット空間のオークションに芸能人に託けてデートの代用品の商品として売りつけることだった。
そうする事によってその利益で過去に幸子に貢ぎ上げた金を少しでも取り戻そうとする考えから編み出された計画だった。