義男は、無論、陰謀集団の仲間ではあったが他の仲間とはどこか違っていた。
一風変わった自分なりの主義主張を持っていたし、またその考えをどこまでも遂行していた。
また、一応、詐欺常習で有名な女達をバーチャル桃源郷に拉致し監禁する悪い仲間の一員ではあったが、常に周りに気配りを忘れずその言動や物腰は常に思いやりに溢れていた。
また、他の野蛮な思考ばかりが優先する仲間達とは違って常に物事を冷静に処理し、またその場の状況に応じた適切な判断を下し乱暴や暴言に走る事はまずなかった。
なので、周りからの信望も勿論とても篤いのだった。
哲史など、どちらかと言えば血の気の多そうな男達も―まあ、この陰謀集団は全員が男だったが―次第に義男の影響を強く受け大分、考えが丸くなっていた。
最初の頃などすぐに暴力や酷いと殺害の話まで持ちかけていた哲史だったのだから義男の潤滑油的役割がとても重大な事が分かるだろう。
今、お話した殺害の件であるが、これは命に関わる事なので詳しく書くが、この物語の今より少し前に例の陰謀集団によって依頼された色男のプロにパスポートを盗まれた伝言女性A(バーチャル名:ライラ)が出てくるが、この伝言女性Aを一時は、マジに殺害しようと考えていたのが何を隠そう哲史だったのだ。
それには理由があった。
その理由とは伝言女性Aには実は幸子以外にも親密な関係の女性がいて、その女性がなんとなく哲史に類似していたという事が挙げられるかも知れない。
伝言女性Aが幸子と出会った時に、不幸にも口さがない噂が立ち昇り、その噂によると伝言女性Aは幸子と再会をする為に哲史に似ていると言われる別の親密な関係にあった女性を亡き者にしてしまったというでっち上げであった。
それは、言うまでもなくキチンと調べれば嘘だとすぐ分かることなのだが、何しろ例の邪悪な陰謀集団の中には文章能力に長けている者達も非常に多く、その中にはその道のプロの者達もいた。
しかも、そのプロの者達が、巧みに尤もらしくその事を仄めかす様なドラマとか映画の脚本をマジに何本も作る物だから哲史も様々な時間帯にそのドラマや映画を観てスッカリその内容の通りだと思い込んでしまったのだった。
しかも伝言女性Aの幸子以外のもう一人の親密な関係にある女性も大変男受けするタイプでこちらもまた別の意味で詐欺とかに長けていて男から大変有名な女性であったので、どちらにしてもその様な人気がある女性が二人も知り合いだった伝言女性Aが陰謀仲間の中の幸子と夕美のファンからとても目障りで邪魔だったのが事実だったのだ。
伝言女性Aのもう一人の親密な関係の知り合いの女性の事を夕実と呼ばせてもらおう。
その方が話が分かりやすいからだ。
先程も話したが夕美の方は少し哲史に似ていた。
なので、その夕美が死んだかもしれないと言う情報は哲史の心に怒りの炎を滾らせてしまったのは紛れもない事実だったのだ。