その声に義男が驚いたように目を丸くして振り向いてこう答えた。
「おぅ、おぅ、裁判を開くというのだね、こりゃ、難しい問題になってきたねぇ」
「えー!みなさん静粛に、これからこのバーチャル空間でここに集まった数名の数多の男達を食い物にしてきたニックキ悪女たちをどう処分するか裁判を開きたいと思います!!」
それと同時に周囲から『わぁ~~~~!!』とか『うぉ~~~~!!』という歓声が沸きあがった。
先に裁判を行うために大声を上げた勇気ある誇り高いアバターの名前は“ミント”だった。
まぁ、本名はきっと違うのだろうが、ここではミントと呼ぼう。
義男は、オロオロとした様子で後ろに後ずさりしながら、すぐ傍にいる幸子とユミコを庇う様に二人の前に立ちはだかるポーズを取っていた。
ここでもどんな時にも女性を庇い守るという義男のレディーファーストの精神がハッキリと見てとれるのだ。
幸子とユミコはというと、あまりにも突然なショックな展開に自失呆然として、血の気が引いて行き、義男の後ろで、ただ、ただ蒼褪めていた。
「縛り上げたらどうだ・・・・!そして、往来を引きずり回そうぜ!!」
「そうだ!そうだ!マリー・アントワネットにしちまえ!!!」
「ジェーン・グレイでもいいぞぉ~!!」
この瞬間ここぞとばかりに日本の歴代の悪女を地獄の底に叩き落さんとばかりに沢山のチンケで野蛮で下衆な男共がその真っ黒な腹の底から腐った異臭を放つ嘲る様な雄たけびを上げたのだった。
「乱暴は止めよう!!冷静に話し合おう!!!」
この時ばかりは、義男の常日頃からの冷静で品位を保った女性を庇い守る言動もこの怒り狂った獣の様な残酷な欲望に燃える男たちの耳には聞き届けられなかった。
‘庇う相手を間違っていやしないか?’それが男達の本心だった。
そして彼らが口々に世界史上に残る悲劇の女王の名前を叫ぶのも、何とも皮肉なことだし、この者共達の残酷で野蛮な本心に血の気が引く思いがするのだ。
何故なら先にあげた歴史上に残る有名な悲劇の女王たちはみな残酷な手段による極刑によってこの世を去ったからだ。
それも、“斬首刑”というもっとも残忍極まりない内容のものだった。
「おい!大げさだぞ!!ここは日本だぜ!この女達は結婚詐欺とか恋愛詐欺とかじゃねぇのか!!」
すっかり、恐怖に溢れ、緊張したムードを和らげるかのように助っ人のように発言をしたアバターがいた。
そのアバターはトナカイのお面を被っていた、そう、あの米田だったのだ。