「お待たせしました」
スッとした表情で、爽やかな幸子の声が聞こえてきた。
気づけば幸子は同じテーブルの向かい側の椅子に腰掛けていたのだ。
「幸子さん、待ったすよ、俺・・・」
待ったとはいってもまだ0時から15分くらいしかたってはいなかった。
「あら、でもまだそんなに時間はたってなくってよ」
そういわれてみれば確かにそうだったが、たったの15分間が涼にとってはとても長く感じられたのだった。
そもそも、涼は待たされることがあまり好きではなかったのだ。
しかし、ここであまり目くじらを立ててせっかく出会ったばかりの幸子に嫌われてしまうのも辛かった。
なので、グッと堪えて涼はすぐ話題を変えたのだった。
「これからどうするっすか?」
「私が知っている場所でいいですか?」
やけに低姿勢に幸子が返答してきた。
幸子と涼の関係はどう考えても涼のほうが夢中ではあったが、それに対して少しも付け上がることなく幸子が低姿勢にそう尋ねて来たことが涼には大変心地よく嬉しく感じられた。
「もちろん幸子さんの知っているとこでいいっすよぉ」
この会話のやり取りでこれからの行き先が決定したのだった。
要はこれからいく場所は、幸子にお任せのコースということなのだ。
幸子は自分は喫茶店でオーダーすることなく、すぐ目的の場所へ行こうと言い出した。
もちろん涼は一応オーダーをするかどうかは尋ねたのだったが。
喫茶店を出ると、風が少し吹いていて寒気がしてきた。
確かにこの時、季節は冬だったので、いきなり喫茶店から出て、風が吹きすさぶ表にでると、とても寒く感じられたのだ。
幸子が着ている黒い膝位までのハーフコートが、目の前をぐんぐん進んでいくのがみえた。
幸子は、意外に早歩きなんだなと、その時、涼は思った。
「まだあるんすか?その場所までは?」
「あと、もう少しですよ」
15分くらい歩いた頃だったろうか、さっきの喫茶店の通りに比べたら少しばかり狭い路地のような場所が現れたのだった。