いい主婦になりきれなくて・・・・
幸子は、都内の某マンションに住む、しがない専業主婦であった。
しかし、幸子本人はこれまでただの一度も自分がしがない専業主婦だと思ったことなどないのだ。
幸子には自分が主婦だという自覚がまったくといっていいほどなかった。
皆無といっていいほどだ。
それはそうだ。
幸子はしがない専業主婦といってもいっぱしのそこらの女性が好んできそうな、ブランド物のスーツやちょっとしたお洒落着にとても敏感である上に、実際にそれらを集めて持っていた。
そして、もちろんそれらの瀟洒な格好に着替え街に繰り出すことだってあったのだから。
その姿を近所の住民はもちろん、少し離れた繁華街に住むものや徘徊する者たちも確かにその目でみているのだ。
その姿を見て幸子のことを専業主婦だと気づいたものが果たしていただろうか?
答えは“NO”だ。
もちろんそういう答えになるだろう。
幸子はそのような派手な装いをして街を歩くときは、主婦だという証拠は一切隠しとおしていたのだ。
そういう時に限って絶対に尻尾をつかませないすばしっこさと悪知恵が働く賢さが幸子にはあったのだ。
幸子の生涯の中で友人を含め仲間は、意外に多かった。
特定の自分をちやほやしてくれる仲間に囲まれパーティーのようなものを主催することもしばしばであった。
だが、そんな時ですから、幸子は、その予定をカモフラージュすることを忘れることはなかった。
実際に一緒に出かける友人の名前や待ち合わせ場所をどんな手段を使っても必死に隠そうとしていた。
それには理由がある。
幸子は人の秘密はどこまでも探ろうとするいやらしいまでの調査魔であったが自分のことは一切人に干渉されたくないし自分の秘密も探られたくはなかったのだ。
それでは、友人や仲間と会うことは秘密なのだろうか?
それは違うのではないか?
しかし、幸子はそんなプライベートの友人や仲間との楽しい集いや、戯言の会ですらも一切他人に土足で入ってこられたり踏み込まれるのを嫌っていたのだ。
心から憎んでいたのだ。