では、なぜ幸子は自分のプライベートをこれほどまでに公表することを憎み嫌うのだろうか?
それは、説明するならばこういうことだろう。
幸子は柄にもなくものすごい見栄っ張りで、あちこちの知り合いに自分は御茶ノ水女子をでただの東大卒だの妄想も甚だしい夢の絵空事をまるで正真正銘の事実であるかのごとく触れ回っていたのだから。
しかも、その話の内容が一貫して同じ内容ならともかく相手によって供述する内容がすべて違っていたものだから、これまた真に話がややこしくなるのだ。
どういう場合にややこしくなるかというと、これらのそれぞれに違う自分の経歴を演出していたもの同士が鉢合わせになると非常に困ることになるからだ。
“私には幸子さんはこういったわよ”“俺には幸子は確かにこういったぜ”
と、そんな風にそれぞれの声が不審が絶頂に達した様子でざわめきさざめき合うのは目に見えていたからだ。
このような現象や行動を人は犬に噛まれたと表現したりする。
もっとわかりやすく表現するとよく被害にあった息子や娘に対し親が“犬に噛まれたと思って忘れなさい”というあれだ。
また、そのような人を欺く悪行を世に言う詐欺と称している。
そう幸子は間違いなくその詐欺を行っていた。
また、もしかしたら現在も相変わらず行っているのだろう。
幸子の人相がもしどこかの大トップにでも似ていたら、その大トップが指揮する業界にもおそらく多大な影響がでているのは間違いない。
今までになかった証拠隠滅を図るかのごとくの大々的なシステムが登場してもまったく不思議なことではあるまい。
現にそれに近い現象は至る所で起きている。
まず、詐欺対策を打つための一番の影響や結果は出会いの場の内容がグーンとシビアになったことだろう。
無声音のパントマイムが主のチャット仮想空間が増えたのがその顕著な例といえるだろう。
そのおかげで自分を隠して妄想で作り出した世界で思う存分楽しむことも可能になったがその逆に世間は詐欺常習犯罪者の味方なのかという大きな不信感が湧き上がるのも否めないのが現状だ。
そしてさらに強く言うなら、主婦詐欺はなにも幸子だけではないのだ。
主婦を含め、たくさんの幸子のような詐欺常習犯罪者は遠い昔から存在しているのだ。
ただ、幸子の場合、どこかの大トップに似た人物は殆どといって総ナメしていたらしく、そのための苦情が非常に多く、彼女をどうするかがまず出会い業界の大きな課題になってしまったのは間違いなかろう。
独身の振りを続け、さも結婚をしてもいいような素振りをしながら、お気に入りの外国製のチョコレートボンボンをプレゼントで自分宛に送らせたり、大好きなゲーム類を買わせたり、図書券をせびったりしていた。
そんな自慢にもならない愚の骨頂のような、せこい詐欺を常に繰り返していたのだ。