どれくらい時間が経ったろうか?
幸子が店の公衆BOXに向かってから、かれこれもう40分近くは経ったと思う。
さっきのホストが気を使って話しかけてきたが、あまり耳に入らなかった。
幸子は誰といてもこのように電話で人を待たすのだろうか?
それに一体、誰と話しているのだろう?
実はこの時、幸子は別の男と話していたのだ。
それは夫ではなく、この間お見合い喫茶のビルの地下室でチークダンスを踊ったあの経営者だった。
ただその経営者だけでなく他にも、チョコレートボンボンをプレゼントしてくれる知り合いにおねだりの電話もしていたのだった。
やれやれ、まったく忙しい人だ。
「水割り、おかわりしますか?」
ホストがおかわりを促してきたが、涼は、それを手を振って断った。
涼は決して笊ではなかったから、続けて水割りを飲むのは少し苦しかったのだ。
「私のこと男だと思いますか?」
突然、妙なことをホストが言い出した。
男に決まっているではないか?どうみても!?
そこへやっと幸子が公衆BOXから戻ってきたのだ。
「お待たせしました」
「あらぁ、幸子さん!今ねこの人に例のこと話してたのよ」
涼はゾッとした、ホストの声色とか話し方が急に女言葉になったからだ。
例のことが一体、何なのかすぐには涼にはわからなかった。
するとそれを察したかのように幸子が涼にこうコソコソと囁いてきたのだった。
「ここは、普通のホストクラブじゃないって気づきませんか?」
涼はサッパリわからないといいたげに両手を肱から挙げてお手上げのポーズをとってみせた。
「ここは、おなべバーなんですよ」
その時、幸子の顔は満面の笑顔だった、これほどの笑顔はみたことがないというほど薄気味悪いほど煌き、輝いてみえた。