涼がオールドパーの水割りを飲んでいる間も、また、おなべホストと語り合っている時ですらも幸子は、酒を浴びるように呷るのを決して止めようとはしなかった。
状況の変化には一切お構いなしで、時間が経つほどに幸子の飲みは加速をつけていったのだ。
やはりというか、誰もそれを止めることはできなかった。
涼の方は、せっかく水割りを奢ってもらったことだし、意地を張ってもいけないなと思い、少し積極的に話題に参加するようになっていた。
涼は既に幸子がいくら飲んでも本当には酔わない体質だと心得ていたので、今回は、その事に対しては敢えて特には意見しなかった。
だんだんと飲みが進みほろ酔い気分に出来上がっていく幸子の有様をみるにつけ涼の方はそれに反比例するかの如く次第に興醒めしていくのをどうする事もできなかった。
しかし、幸子の場合酔ったと言っても別に顔色が変わるわけでもなんでもなく色白のままで常に素面であったので、特に表立っては大きな変化は見られなかったが。
ただ、時間を追うごとに次のオーダーを取るまでの時間の距離が狭まって行くのが手に取るように感じ取られたのだ。
気づけば、幸子が、
「おビールもう一本お願いします!」
といったり、
「梅酒ください!」
とおなべホストに甘えるような声で媚びていたのだった。
今日は幸子と会う前に銀行から10万降ろしてきたから少々羽目を外しても絶対に大丈夫、そう涼は思っていたのだ。
そんなことが頭を過ぎっていた時だった。
「あら、もうこんな時間、そろそろくるわ」
と幸子が、突然、誰か待ち人が来るというような発言をしたのだった。
確かに、少し前に“お迎えが来ます”とは聞いてはいたが、もうそろそろ時刻は、午前3:00になろうとしていた。
誰が来るのだろうと、涼が少しソワソワしだした時だった。
店の入り口が、ギィー、ギィーッと軋む音を立てながら開いたのだった。
入り口の扉が開いた、そこに現れたのは、背の高い紳士だった。
そう、その姿は紛れもなく、前に幸子がお見合いパブの地下室でバドワイザーをご馳走になり、そのあとチークダンスをしたあの経営者だった。
「こんにちはぁ~~!!」