紳士の姿を発見し、幸子が嬌声とも言えない、素っ頓狂な声を上げると、入り口に現れた紳士はツカツカとまっすぐに幸子の方に歩きだしたのだった。
そして幸子のいる店の中央のテーブルの前まで来るとピタリとその歩みを止めた。
途端にテーブルを中心にその周りから異様な緊張感のようなものが辺り一面に漂った。
この状態を何かに例えるとしたら、もしかしたら世に言う鉢合わせというやつだろうか?
幸子は何も気にしない様子で、
「あら、お待ちしてましたわ」
といたって何事もないという様子で立ち振る舞っていた。
涼の性格をこの時点で既に見透かしていたのだろうか?
このように振舞ったとしても、彼は別に動揺したり、荒れる心配はまずないと。
おなべホストはいつのまにかその場からいなくなっていた。
気を使っているのか?だとしても、何も消えることはなかろうに。
刃傷沙汰になるとでも思ったのだろうか?
涼は、その紳士が、都内の某お見合いパブの経営者だということは知らなかったが、どうみてもその紳士がただ者ではないのはその雰囲気や身のこなしですぐ気づいたので、紳士が店に現れた時点で、一線を画すように身構えていた。
それはまるで防衛本能を振るうかのごとくの仕草であり、ポーズだった。
また、勝ち目がないと感じたのも否めなかったが。
「待たせたね、おや、隣にいるのは弟さんかな?」
弟?、涼は唖然とした、自分は幸子の弟にみえるのだろうか?
そりゃあ、幸子より童顔なのは確かだが、ちょっとガックリした気分になった。
「いえ、お友達です」
兄弟といわれるよりはましか、お友達と言われた方が、そんなことを考えながら涼はやっとその場の状況に溶け込めそうな気分になった。
そのあと紳士は手に抱えていた、割と大きめな包みをテーブルの上に置いた。
その包みは、綺麗な赤いリボンがきちんとかけてあった、幸子の大好物のチョコレートボンボンが入った包みだった。
「わぁ~~!嬉しい!!ちゃんと持ってきてくれたんですね」