失意
店のレジで無事に清算を済ませ、3人で店の外にでると、天から霰が降っていた。
その時はもう1月の終わりごろだったのでそれは無理もないだろう。
真冬真っ只中であるから。
経営者の紳士は幸子を庇うようにコートの上から肩を抱いていた。
その時、涼は嫉妬というより、“やっぱりそういう仲だったんすね”と考えを頭の中で巡らせたのだった。
幸子の話を全て鵜呑みにし、幸子の上品な立ち振る舞いにスッカリ魅入っていた涼は、幸子ほどの女性なら、パトロンの一人や二人はいるだろうとは予想していたのだ。
そして、その考えと同時に経営者と会う前や、頭の中で考える時は、いつもの“そうっすね節”のような語り口だったが、経営者と出会ってからは、ただ者ではないというその雰囲気に緊張してしまって、一般語になってしまっている自分にも気づいていた。
別にそのことを恥とは思わなかったが。
人間なら誰しもそういう心揺らぐ瞬間がある日、突然やってくるのはいた仕方ないことであろう。
また、経営者の紳士と幸子の仲を薄々、予想はしていたものの目の当たりにしてしまうと、やはり、ショックであった。
そうこうしているうちに3人は経営者の紳士の好意によって車で送ってもらえることになり3人で経営者の所有する大型バンに乗り込んだのだった。
しかし、やはりというべきか、涼は
「俺は駅前でいいっすから」
と男らしくキッパリといったのだ。―この時はいつもの言い回しに戻っていたのだ。―
今なら始発はもうすぐであったのでそれは当然な申し出だったかもしれない。
その直後に経営者が幸子に向かって
「どうだい今から僕の家に来ないかい」
と誘い出したのだ、涼は、少し「ウッ」と詰まった。
「この人の家は、カラオケもあるんですよ、あなたも一緒に行きませんか?」
すると幸子は突然そういいながら涼に目配せを送ってきたのだった。
「俺は今日はよしておきます、今ここで降ろして下さい」