居酒屋で幸子は伝言ダイヤルの女性のある質問に対してとても懇切丁寧に解説をしていたのだった。
それは、さっき紀伊国屋書店の別館で買った雑誌に書いてあった『レズビアン』のことについての質問だった。
根本的にどういうものであるか、伝言ダイヤルの女性が特集雑誌を買うほど研究熱心な幸子に尋ねてみたくなったのも無理はなかろう。
幸子の答えはこうだった。
「レズにはタチとネコがあります、あとノーマルの人のことはノンケといいます」
スラスラと説明をする幸子の顔は大変得意げで満面笑顔だった、まあ、この幸子という女性は常に愛想笑いをしている習性があったのは事実だが。
ここで何をいいたいかというと、この時点で既に幸子がレズビアンだというのが詐欺ではなかったかということだ。
幸子は伝言ダイヤルの女性に自分は昔からレズで男の人に興味がないと言ってのけたのだった。
さらに幸子の話した内容を説明するとその他にも涼の前で、その類の雑誌を買ったこともあるホモのことも熱心に居酒屋で語ったのだ。
ホモには、ホモとゲイとバイセクシャルがいるらしい、バイセクシャルは略してバイといい、また、バイとは両刀遣いの意味であり、それはレズにも適用されるらしい。
伝言ダイヤルの女性はその話に一生懸命耳を傾け、聞き入ったのだ。
何しろ、こういう類の話をここまで詳しく聞いた相手は幸子が初めてだったからだ。
ものめずらしくて仕方なかったのだ。
しかし、知り合ってからここまでの間、次から次へと発覚する幸子の残酷趣味や変体趣味に伝言ダイヤルの女性が辟易していたのも、また事実だったが。
幸子と伝言ダイヤルの女性が居酒屋で語りあっていた頃、例の涼は、幸子の電話に何度も電話をしたが、いつも留守電なのにイライラを感じていたのだった。
経営者の紳士とおなべバーで鉢合わせになって以来、数回あったきり、突然いつ電話をしても留守電で幸子と連絡が取れなくなってしまったのだ。
“なっぜすかぁ、どうして、留守電にメッセージしているのに返事がないっすかぁ、俺のこと嫌になったんすか?”
と涼は自分自身に自問自答して一人部屋で嘆いていたのだった。
また、電話をかける場所は何も自宅だけではなく外の公衆電話からもかけていたのだ。
実は幸子はこの時、伝言ダイヤルの女性とは伝言メッセージシステムなる伝言ダイヤルの女性がその時使用していたポケットベルに付属していたサービスで連絡を取り合っており、新し物好きの幸子はすっかり、そっちの方に気をとられていたのだった。
しかも、自分の趣味の一つである同性愛の世界に関してまったくの無垢の状態の伝言ダイヤルの女性に新鮮さを感じ自分の思ったとおり教え導いたり、調教してみたい気分にもなっていて、ますますそちらに気を取られていたのだった。