そして、幸子は居酒屋でも、例の飲みをするのを忘れていなかった。
それは怒涛のように始まり、その居酒屋を出る寸前まで終わることはなかったのだ。
無論、先程お話した、レズとかホモの談義の最中も、休むことなくその行為は行われていたのだった。
だがその頃、若さを売り物に接客の仕事のバイトをしてお小遣いを沢山持っていた伝言ダイヤルの女性はいくら目の前でそれだけ飲まれてもそれほど不安を感じなかったのだ。
まず帰りの支払いが危なくなる心配はなかったからだった。
しかし、この大人しそうで楚々とした人相の割りに、どこまでも果てしなく飲みに走る幸子の姿を見るうちに伝言のダイヤル女性は、一抹の驚きを隠すことは出来なかった。
この女性は一体?
誰でもそう思うだろう。
飲み屋でバイトしているからこんなにも飲めるのだろうか?
接客経験が既にその頃、豊富だった伝言ダイヤルの女性はすぐそう思ったのだった。
この幸子という女性は飲み屋の女性ではないのかと、伝言ダイヤルの女性は真剣に想像したのだった。
しかし、コックが仕事で料理を作るから家庭では面倒くさがって作ったりしないというのを聞いたこともあったし、本当に飲み屋の女性なのかという疑問も同時に起きたのだった。
すぐに飲み屋でバイトをしているのかと幸子に尋ねたが返事はノーだった。
それは確か涼にも同じようなことを言っていたと思うが、“自分は都内で編集者に勤務している”と終始一貫して通していたのだ。
そして、またここでも幸子の悪い癖が始まったのだ。
チョコレートが好きだというあの得意な誘い文句だった、買ってくれといわんばかりの。
それはやはりというべきか、どういうものが好きなのか欲しいのかというような話題になった時のことだと思う。
幸子はチョコレートボンボンの話を伝言のダイヤル女性にはしなかった。
幸子が伝言ダのイヤル女性に話した好きなチョコレートはM&Mのチョコレートだった。
“プレゼントをくれるならそのチョコレートがいいです”とまで言ってのけたのだった。
伝言ダイヤルの女性はその日、居酒屋の帰りに幸子にタクシー代を渡してから家路を辿ると、さっそく今度会ったらM&Mのチョコレートをプレゼントしようとマジに考えたのだった。
―その頃、涼は部屋で幸子の心変わりに噎び泣いていた。―