たっぷりとコップに並々と8分目になるくらいに缶からビールを注ぐとホップの泡の香りがなんともいえず甘酸っぱく辺り全体に漂った。
時間が経つほどだんだん腕がくたびれて来たが、まるでこの任務をどうか無事に最後までやり遂げなくてはという感覚にも似た使命感が湧き上がってきたのも否めなかった。
今宵のお相手の女性は必死で段々と疲れてきて痺れて震える手で最後までビールを幸子の為にコップに注ぎ続けたのだ。
もちろん幸子はそんな相手の女性の召使のような態度をうざいと思ったのか、途中で一生懸命その女性にもビールを勧めなんとか酔わせて潰そうと試みたのだ。
でもビールは大好きだし注いでもらうとすごく楽だったのでその行為を止めてくれとはさすがに言わなかったが。
ひとしきり飲むとそのビジネスホテルの部屋で、また例のホモの話を始めたのだ。
その話は幸子がよく買う大人の特殊マニア雑誌の『薔薇族』という雑誌でホモ達と文通をしているという話だった。
その時の幸子の話だと、ホモはわざとレズの女性と偽装結婚をして結婚後の体裁だけは守り、お互いにその趣味を遂行していくということだった。
その『薔薇族』という雑誌の文通コーナーで既に何人もの真性のホモと知り合ったと今宵のパートナーの女性に話したのだ。
その話を聞いていると幸子という女性はそういう結婚を、つまり、偽装結婚をするつもりなのかな、と思わすような話しぶりだったのだ。
その話をしている間もパートナー女性はずっとビールをコップに注ぎ続けたのだ。
そのまるで僕のような従順な姿に幸子が哀れを感じたか単なるお馬鹿を感じたかは想像するしかないことだが。
さすがにかなり沢山の量の缶ビールを買ったのでなかなかそれだけ注いでもビールはなくならなかった。
どんな話をする時も幸子は常に陽気で微笑を絶やさなかった。
また、それが幸子の良いところだとも言えるだろう。
ただ、相手と真面目に付き合う気などさらさらないのにいつまでも延々と相手との関係を沢山のパートナー達といっぺんに保ち続ける態度はあまり戴けたものではなかった。
その有様は、常にスペアを持っていないと気持ちが落ち着かないかのようにも見えた。
またそのために沢山の相手から結果的に大きな恨みを買うことになってしまったのも事実だった。
涼がいい例だ。
実はこうして出会い系で知り合った女性パートナーとのお楽しみの時間の最中ににも涼は既に復讐の行動をとり始めていたのだった。