朝、目が覚めるとちょうど午前9時頃だった。
その高級ビジネスホテルは朝10時がチェックアウトだったので、まだ時間は幾分あったのだ。
なので、顔を洗ったり、モーニングティーを飲んだりしたのだ。
と言っても、ホテルに備え付けの紅茶とかお茶とかコーヒーは、それほど旨い物でもなかったが。
まあ、ないよりはましといったところだったろうか。
いよいよチェックアウト10分前9時50分になると、さすがにそろそろ出ないとということになり、手早く着替えるとホテルの外へと出たのだった。
そして二人は駅前までゆっくりと歩いて行ったのだ。
幸子が乗る地下鉄の駅の入り口の前までくると二人は歩みを止めたのだった。
幸子はそのその日の気まぐれで出会ったパートナー女性に“また今度会いましょう”などと言ってその場は別れ、そのままズンズンと地下鉄の入り口の降り階段を下りていった。
“非常に素直で感じのいい子だったわ”と幸子はそのパートナー女性のことを評価した。
この間知り合った伝言ダイヤルの女性よりもっと機転が利く感じも気に入ったのだった。
あの高級ビジネスホテルの代金を支払えるということは、この子も接客業か何かだろうか?
幸子は伝言ダイヤルの女性から仕事は接客だと、とうに聞いて知っていたので新しく知り合った女性もおそらくそうであろうとすぐ気づけたのだった。
それに、既に幸子には過去に付き合った女性の中にもSMクラブの女王様をやっていたレズのタチ役の知り合いがいたので何も珍しいことでもなかったのだ。
ここで、伝言ダイヤルの女性を最初に知り合ったほうを伝言ダイヤル女性Aと言い、次に知り合った女性をツーショット女性Bと言おう。
その方がきっと分かりやすいと思う。
そしてSMクラブにいた女性はあだ名が“ゆかちゃん”だったのでこちらはそう呼ぶとしよう。
この“ゆかちゃん”には、一時はレズの結婚相手としてプロポーズまでされたらしいのだが、結局ゆかちゃんの方の心変わりで、『もう二度とかけてくるなよなぁ』と電話で言われ、振られてしまったのらしいが、今となってはそれも本当にそうかは眉唾ものだ。
それは何故かというと、実際に最初に知り合った伝言ダイヤル女性Aも、次に知り合ったツーショット女性Bも幸子の方から断ってきたのに、幸子は周囲のものには自分が断られたと噂をばら撒いていたのだったから。
それは相手のことを気遣っているようで、あまり大げさにありもしないことを言いまくると最終的にかえって相手に迷惑をかけるということに幸子は気づいていなかったらしいのだ。
その不幸は確実に訪れ、やがてはその相手や周囲の者たち、そして自分自身にも絶大な恐ろしい影響をもたらすのは目に見えていたのだ。