映画や好んで買う雑誌の種類もそうであるが、幸子は猟奇趣味の毛が多少なりともあるのではないだろうか?
そんな疑問も自然と湧いてくる次第だ。
映画をみたあとは銀座の居酒屋に二人は行ったのだった。
また、例の如くそこでも幸子は厖大の量の酒を浴びるように呷ったのはいうまでもない。
ひとしきり酒を呷りお得意の某女子大を卒業した話をさんざん自慢すると幸子はスッカリ満足して気が済んだのか、場所を変えたいと言い出したのだった。
それから幸子の提案で伝言ダイヤル女性Aと幸子はカラオケBOXに行ったのだった。
そのカラオケBOXの中でも幸子は相変わらず大酒を喰らい、そして各々が数曲づつ歌い、そのうち仕舞いには管を巻きだした。
「私は馬鹿は嫌いです」
「私って馬鹿でしょうか?」
「馬鹿だと思ってたら呼びません、もうそんなこと聞かないで下さい!本当に馬鹿になりますよ」
そんな会話を二人は平然とカラオケBOXの中でしていたのだった。
酔いが廻ると幸子は普通は上機嫌になるのだがこの時はいつになく珍しく、やたら“馬鹿”だの“お馬鹿”だの連発しだしたのだった。
つき合わされている方の身になればこれは大変、失礼な限りだ。
だが、伝言ダイヤル女性Aはその幸子の暴言に必死に耐えていたのだ。
かと思えば、相手の顔をマジマジと見据えて突然に
「撫すですね、あなたって本当に」
とか言ったり本当に失礼千万この上なかったのだ。
これは悪酔いをした時か逆に大分、相手になれてきて甘えているようにも受け取れて見えたが。
伝言女性Aは自分の顔に絶大な自信があった訳ではなかったので、幸子にこう言われても、それはもっともな意見かもしれないとまで自分を卑下してしまったのだ。
とてもつまらない酒やカラオケになってしまったが、ともかくなんとかその場を切り抜け、そろそろ帰ろうということになった。
カラオケBOXから外に出ると銀座の町並みの道路脇には沢山のタクシーがまるでポスターの絵のように綺麗にどこまでもまっすぐに整列していた。
そしてそれぞれが別々のタクシーに乗って右と左に別れたのだった。
幸子はその際、伝言ダイヤル女性Aから図書券とタクシー代を受け取りそれをしっかり握り締めてタクシーに乗るとすぐにバックにしまい込んだのだ。