と他のものが尋ねると
「俺ならそんな湿気たしがない温泉なんかじゃなくて、豪華に海外旅行とかしてぇなぁ」
と哲史は大袈裟に唸った。
「だけど海外はパスポートないといけないぜ、お前持っているのか?」
と誰かが言えば、
「おうよ、それくらいはよ、その気になればいつでも作れる、心配はねぇ」
と哲史はいったのだ。
「でも、俺は一人では行きたくない、できれば幸子と行きたい、そこでだ、幸子がパスポート持っているかだな問題は」
「そうだなぁ」
とまた別の者がいうと
「もし、持っていなかったらそれも用意すればいい」
と哲史はすごく簡単に言い切ったのだった。
哲史は絶対に条件を満たしさえすれば幸子を海外旅行に誘った場合、自分は選ばれるに決まっているという断固とした自信を持っていたのだ。
「でも、どうやって用意すると言うんだい、それに用意できたとしても幸子は結婚しているから、男と行くのじゃ旦那が許さないだろう」
「だからよぉ、幸子のために別口のパスポートを用意するんだよ」
「ええぇ」
「主婦だから、証拠が残っちゃいけねぇ、だから実家に帰ったか友達の家に泊まりに行ったか、妹のとこへ遊びに行ったことにして別人のパスポート使って旅行するんだよ」
「お前それって、犯罪じゃないか?」
「おうよ、そんなのわかってらぁ」
それはもし実行したら間違いなく犯罪行為であった。
身分偽証罪とパスポート窃盗罪の両方ではないだろうか?
もし、相手の了解を得られれば、その限りではないだろうが、普通、了解を得れることなど不可能だろう。
哲史は、自分たちが仮想バーチャル空間内で腐っている時に、優雅に温泉旅行を楽しんでいる幸子たちのことを心から妬み、その挙句の果て頭がおかしくなってしまったのだろうか?!