声をかけたが、部屋から返事がないのを不審に思い、伝言女性Aが慌ててシャワーでジャグジーの泡を洗い流して、風呂を出ると既にプロ男の姿は跡形もなく消えていたのだった。
自分ひとりだけとなったラブホテルの一室に呆然と佇む伝言女性Aの姿はタオルを体に巻きつけた状態のままだった。
ふと、ソファの上に置きっ放しのバッグのことが気になりそちらの方に振り返ると、バッグはきちんと最初の状態どおり置かれており無事だった。
突然消えた男のことなど、ただの泥棒にみえてしまっても仕方あるまい。
どうせ、行きずりのような出会い系で知り合った男だったのだし。
一応、気になるのでバックの中を確かめたが、別におかしな点は見当たらなかった。
何もなくなってなどいなかった・・・。
と、待てよと伝言女性Aは思い、いつも自分のパスポートを仕舞い込んでいる手帳のカバーケースの中を覗いてみたのだ。
すると、パスポートだけが綺麗に姿を消していたのだった。
“な、なんてこと、さっきの色男に盗られたんだわ”とすぐに状況を察し自分の不注意で先程であったばかりの行きずりの男の美男子振りにスッカリ見惚れてしまって、馬鹿をしてしまったと心から後悔をしたのだった。
この時点で時刻は既に夜の10時を回っていたのだ。
ただ、先程のプロ男と出会ってからたいして時間はたってはいない、せいぜい一時間程度だ。
“ああ、それにしてもなんて馬鹿な私・・・”そう思いながら伝言女性Aはラブホテルの一室の真ん中でポツネンと立ち尽くし、悔しそうに唇を噛み締めていたのだ。
その頃、例の温泉宿で幸子と出会い系女性Cは二人とも風呂を別々に入り終わり温泉宿の晩御飯も済ませ、出会い系女性Cが暇つぶしの為に用意してきたと言っていたパズルのような絵本で二人一緒に楽しんでいたのだった。
その絵本は『ウォーリーをさがせ!』という有名なイギリスの絵本だ。
作者はイラストレーターのマーティン・ハンド・フォードだ。
沢山のウォーリーとソックリな洋服を着た、あるいは、まったく同じ洋服を着た大勢の違う人物の中から本物のをウォーリーを探し出すという内容のとても愉快で楽しいものだった。
何百人数千人ともいるようにみえる傍題な人数の中から本物のウォーリーただ一人を探すのは一つのスリルを伴う冒険のようなワクワク感さえあった。
「幸子さん目が回りそうです」