義男が来ないのは無理もなかった。
何故なら、あの倒れた時以来、二度と起き上がることがなかったのだから。
つまり、義男はあの時点で天に召されたのだった。
昇天したのだ。
ところで仲間たちは義男が来ない事を気にもせずバーチャルの無限の桃源郷の中を楽しげに遊行していたのだ。
その楽しさは、いつまでも、それは終わることなく繰り返し押し寄せてくる快楽の波にも似ていた。
そろそろ疲れてきたなと思えば、ロムする者もいれば、そのまま寝落ちしたり、スッパリ、ログアウトして現実世界に帰る者たちもいた。
なのでお開きの時間は自由解散だった。
義男の不幸が発覚したのは、それから一週間ほど経ってからだ。
義男が天に召されたあくる日に皆が約束の時刻に例のバーチャル空間で義男の事を待ったが来なかった日から数えてちょうど一週間だと思う。
怪しいオカルトをしていた自室で義男が発見された時、義男は暗がりではよく見えなかったが、上下黒のスーツにワイレッドのお洒落なカラーシャツを着ていた。
利き手の右手を頭上に放り出したままの姿で仰け反る様に横向きに倒れていたのだ。
放り出された右手の先、ちょうど1.5メートルくらい先にはオカルトの最中、義男が握り締めていた大きな太い赤い蝋燭が転がり落ちていた。
蝋燭の周りやその周辺には溶けた蝋の雫が飛び散っていた。
その雫は義男の口元の右側にも大きなほくろのようにへばり付いていた。
それは、まるで死化粧のようだった。
血の気の引いた蒼ざめた顔は死後硬直を経たせいか強張って見えた。
そして、不幸の知らせはすぐに仲間たちにも知れ渡ったのだ。
皆、一瞬、息を呑んだ。
誰もが信じられないという様子だった。
あれほど、これからの計画に熱心だった義男がいなくなったら自分たちはこれからどう動けばいいのか。
みな突然の悲報に途方に暮れたのだ。
だが、泣いても笑っても、もう二度と義男と会うことはないのだ。