「戻ろうと思えば、戻れるかもしれない、でも僕には戻る気はもうないのだよ」
「それは何故!」
米田は、激しく感情をぶつける様に義男に食い下がった。
気づけば、いつの間にか手のひらを強く結んで拳を作っていた。
そして、その拳をブルブルと震わせていたのだ。
「僕は、“愛しい者”に会えた、もう何も現世に思い残すことはないのだよ、もちろん、ありとあらゆる術を心得ているから、その気になれば肉体も蘇生出来ると思うよ、だけどもうそのつもりは僕にはないのだよ」
「“愛しい者”ってそんなに大事なものかい?それに、いったいそいつは誰なんだい?!」
米田が繭と顔をしかめてそう問いかけると義男は何も悪びれる事もなくまたこう続けたのだ。
「誰かって?教えてあげよう!さあ、僕の“愛しい者”よ彼の下へお行き!!」
そういって半透明人間のような義男の上半身の右手がさぁ~~っと米田を指差すとその途端、なんと米田が身を捻らしてもがき出したではないか。
「うぅっ、うっ、苦しい・・・!なんだこれは、息が詰まりそうだし、頭が割れるように痛い」
突然、全身を貫くような激痛を受け、苦しそうに米田が自室でのたうち回って喚くと、
「それは、可愛そうに、でも君は誰だか知りたいとさっきいったじゃないか、なら絶えなければ駄目だよ」
と冷たく吐き捨てるように義男が薄笑みを浮かべながら、言い放ったのだ。
義男はもうすぐ分かるさと言いたげに米田の全身を走る激痛の苦しみをよそに涼しい顔だったのだ。
「苦しい、俺は死ぬのか?おい義男教えろ!?」
激痛に耐えながら米田が、義男に問いかけると冷たい表情で義男はこう言った。
「残念ながら、それは僕にも分からない、」
「な、なんだと、無責任な!」
苦しそうに喘ぎながら米田が喚くと
「何故なら、それは愛しい者が決めることだからだよ」