幸子は、いつになくイライラしていたのだ。
それは、そうだ、常日頃から、リアルで陰謀集団から様々な嫌がらせを受け辟易としているところへ、さっきの哲史のような言いがかりを付けられれば誰だって気分を害してしまうのは当たり前だ。
哲史はその事に気づいたかどうかは謎だが、幸子の返答に対してすぐには言い返したりはしなかった。
だが、少し間を置いてからこう言ったのだった。
「お前、少しいい気になっているみたいだから、忠告しておいてやるよ、お前が何故、ここにいる羽目になっているか考えたことあるか?!気をつけないとこのままじゃずっとここから出れなくなるぜ!」
幸子はキッとなり
「大きなお世話です、あなたに何がわかるというのですか?!蹴りますよ!!」
と怒鳴ったのだった。
ここのバーチャル空間は親切なことに太文字に調整して怒鳴った感覚でチャットを楽しめるようにもなっていたのだ。
あっ、という間に哲史は幸子に蹴られてしまった。
蹴るとは分かりやすく説明すると部屋から追い出されることだ。
「あの女、話にならねぇなぁ、」
そう呟くと、突然、そのあと哲史は偏頭痛に襲われたのだった。
「うっ」
と思った時だ、懐かしい声が聞こえてきたのだ、それは義男の声だった。
「さっきのみてたよ、でも大丈夫だよ、計画はうまく行くよ」
「えっ!その声は義男じゃねぇか?お前、生き返ったのか?」
哲史がギョッとしてそう言い返すと、義男はまたあの半透明の上半身姿で哲史の前に姿を現したのだった。
「あぁ、というかね、僕は死んではいないのだよ、肉体だけが滅んだだけだよ」
「そうか」
哲史は少し驚いたものの、相変わらずの義男の諭すような落ち着いた話し振りに、突然の奇妙な再会に対する恐怖心も次第に消えていったのだった。