行く場所は決まっていたが、ふとあることに幸子のパートナーは気づいたのだった。
それはとてもこの場面では重要なことだった。
先にもお話したが幸子はこのバーで膨大の量の酒を飲んだのだ。
なので、この今宵、幸子に何かの縁でパートナーとして選ばれたこの人物は当然ながら最後の御代は自分が払うと分かっていたので、幸子が移動をしたいと合図する前から常に自分の財布の中身は気にしていたのであった。
つまり、簡単に言えばもう財布の中身はここの代金を払うとたぶん空っぽに近い状態だった。
家に帰るには電車の定期があるからなんとか帰れるが、これ以上場所を変えてお付き合いするのには非常に無理がある状態に陥っていたのだった。
「あのぉう、幸子さん、あの、俺・・・・すみません。もう少しここでこのまま飲みませんか?」
幸子は唖然とした表情だった。
「場所を変えないと駄目っすか?」
パートナーはおそらく男であった。(?)
なので、男たるものいかなる理由があろうとも連れの女性の前で懐が寂しく、財布がピンチだということを知らせるのが恥だと思えたのだ。
それにここのバーならつけができることも期待できた。(それは確かなことではなかったがこの時涼はつけができるという方に賭けていた)
なので、ともかくこの場はここに留まってもらって時間を稼ごうと思ったのだ。
―朝の8時か9時になれば確か銀行が開くよな・・・・―そんな考えが頭を過ぎったのだった。
「涼さん、私、いつまでも同じ場所なんて嫌だわ」
幸子はそういい終わるや否や、「それじゃ、私・・・・」
といいかけた時だった。
「わかりました。いい方法があります、実は俺、銀行から余分に降ろしてくるの忘れて、手持ちがもうないんすけど、カードがあります、カード使えるとこにしましょうよ、お願いっすよ」
幸子の会話を正しいとするなら、おそらくこのパートナーの男は涼というのだろう。
その涼がプライドをかなぐり捨てても冷たく帰ろうとする幸子のことを引き止めたいと思った瞬間の一コマであった。
「私、別に帰るなんていってません、おかしなこと言わないでください」
「ああ、よかった」
結局、カードが使える場所に移動することが暗黙の了解で決まったのであった。
バーを出る時点で涼の財布に入っていた現金の5万円は軽く消えていたのであった。
確か興に乗ってほろ酔い気分になった涼が幸子の前で格好をつけたくなりかなり高い酒のボトルを入れた支払いも含まれていた。
まだ、ハッキリ今後も交際をするとは幸子は一言もいっていないが涼の方はすっかりその気になっていたのだ。
今後もこのバーにまた二人で来たいと思うためにボトルをキープしたのだった。
そして二人はカードが使用できるようになっている次の場所へ向かった。