「本当にもう、あなたったらぁ、人の話をちっとも聞いていないのねぇ、もっとまともな人かと思ったのに本当にがっかりしたわぁ・・・私は、あなたには残念だけど失望してしまったわ」
「私(わたくし)のせいで失望?!それって、ひどいじゃないですか?私がいったい何をしたというのでしょうか?」
この“お洒落なBAR”の部屋の中全体に激しいビートのような心臓の鼓動にも似た旋律が一瞬駆け巡ったのはいうまでもなかった。
その上、幸子とユミコの視線の間にはレーザービームの光線に似た火花がバチバチと飛び散っていたのだ。
それは実際に目に見える訳ではなくこの部屋の来客全員の脳裏に陽炎や幻想のように浮かび上がっていた。
米田も、身の内から湧き上がる興味を抑えきることが出来ず、一心にそば耳を立てながら、この二人の悪女の会話に聞き入っていたのだった。
そして、会話が続く中、突如、ユミコが声を荒げて確かにこういったのだ。
「私、知っているのよぉ、あなたのことを信じている人の大事なものや大切な人をあなたが平気な顔で当然のように拝借しているのを、・・・聞いたのよぉ・・きっと私の物だって・・、私はあなたには騙されないわよぉ!騙されるものですか!」
「私、そんな酷い事してません!記憶にありません!!」
「まあぁ、白を切るのね!盗人猛々しいとは、あなたの事をいうんだわ、いいわ!とぼけるならこっちにも考えがあるわ」
悪女同士とは、このように仲良く語り合うかと思えば、突然、右と左に別れ、罵倒を繰り広げるものなのだろうか?
或いは、このバーチャルの無限に広がる桃源郷がこの日本国における指折りの悪女の怪しく哀しい性を呼び覚まさせたのか?
悪女にも色々あるが、その中でも幸子ほど印象深く感慨深い女もいないだろう。
その厳選された悪女の代表株とも思える幸子に対して幽体離脱と念力のパワーで挑むユミコの果敢な姿は正に表彰されるべきものではなかろうか?
「出て行って下さい!!ここは私の部屋です!!不愉快な方は即、退出願います!!!」
あらん限りの声を振り絞って幸子がそういったが、もちろんここはバーチャル空間なのでその声は耳では確認できなかったが。
あくまで大文字太文字のふきだしの文字の表現から感じ取れるものだった。
米田は、ずっとさっきから二人の会話を聞きながら、なんだかやばい雲行きだなぁと不安に駆られ、これから先のことを思い気を揉んでいたのだ。