ユミコが幸子が経営する“お洒落なBAR”のシルバーのバーデスク越しに大声で捲し立てていた。
「だから、もう~、わからない人ね!!さっきから聞いてたら、あなたって、本当に自分のことばっかりだわぁ!!」
幸子が負けずに言い返した。
「私(わたくし)は、間違っていることは何一つ言ってないと思います、それにここは私の部屋ですから出て行ってくれと言う権利があると思います、何も分かってないのはあなたの方だと思います」
ユミコはさっきこの部屋にずっと居た来客の米田が扮するトナカイのアバターがロムをしたきり動かなくなり、固まった状態でいきなり落ちたのを気づいていた。
米田が落ちた後は他の来客たちも、女同士のいつまでも続く耳障りな会話に痺れを切らせ皆、他の部屋に移動したり落ちていたのだった。
ライラですら、晩御飯時になったのでとっくに落ちていた。
「その、わたくしっていうのやめてもらえないかしら、さっきから何度もあなたが‘わたくし’とか‘おほほほほほほほっ’というたびこっちは体に虫唾が走って神経がどうかなりそうだわぁ!!相手のそういう気持ち、真剣に考えたことあるぅ?!あなたのその調子に呆れてお客だってみんな消えちゃったじゃない・・・」
「あなた、何者なんですか?蹴ってもチャックをしてもビクともしないし、怪物ですか?!」
「怪物ですってぇ~~~!!!いい加減にしてよぉ、もう我慢できないわぁ!!!!」
その次の瞬間に、幸子が急に“うぅっぅ~”といいながら、蹲ったのだった。
だが、その姿はバーチャルの中では見えるはずもなく、ただ幸子の操縦するアバターが急にロムして動かなくなっただけだった。
幸子が蹲ったのは自分のリアルのパソコンのある自室でだった。
そしてこの時、幸子は急に苦しくなってパソコンの画面を静止する気持ちの余裕もなくなっていたのだ。
気づけばあまりの苦しみに茂垣ながらパソコンの置かれているデスクの上を手当たり次第に爪で掻き毟っていた。
気が遠くなり、次第に全身の力が抜けデスクから体が崩れ落ちそうになった時だった。
「大丈夫かい?」
後ろから心配そうに声をかけてきた者がいた。
それは紛れもなくあの義男の声だった。