実は、義男は人事のように幸子に対して意見を述べているが、過去に幸子に出会った記憶があった。
確かにうろ覚えではあるが、幸子と高級ラウンジバーでワインを楽しんだ記憶があるのだった。
それは白い粉雪が舞い飛ぶ寒い季節のことだった。
その時の二人は、まるで、いいムードの恋人同士のように意気投合していたのだった。
ワインを楽しんだ後は、都内の有名なおかまのダンスショーの店に行き、おかまのダンスショーを観たこともハッキリと記憶に残っていた。
その店は代金は先払いだった、勿論、義男が支払っていた。
おかまのダンスショーの店で幸子が、ステージでおかまダンサーが“ざんすざんすそうざんす”といいながらオチャラケていたのをそのまま真似して
『ざんすざんす、そうざんす』と楽しそうにハシャイデイた姿が今でも脳裏に彷彿として甦るのだ。
ショーが終わると帰りは義男がタクシーで幸子の家の近所まで送っていったのだった。
その時、タクシー代は勿論のことその日のデートの前に頼まれていて事前に用意していた図書券も幸子に渡したのだった。
それなのに幸子は少しもその事を思い出す様子もなく自分の悩みのことで頭がイッパイなのだ。
見返りを求めるつもりはないが、せめて、二人が出会った事くらい覚えていて欲しかったのだ。
幸子が自分の存在を覚えていないことがハッキリ言ってとてもショックだった。
まあ、とうに幸子がそんな女だと言う事は他の仲間達からも噂を沢山聞かされ判ってはいたのだが。
それでも、そのような冷たいそ知らぬ振りを目の前でマザマザと見せ付けられるとやはりショックだった。
幸子という女が婚前そして結婚後も男を誑かし、欺き、利用の限りを尽くしてきたことは弁舌にはし難いが。
ただこのままただ黙って、引っ込むのもとても癪に障るのもまた事実であった。
しかし、すべてそういう悔しさや惨めさに関する復讐計画はあの15人の仲間とそれプラスの陰謀集団で着々と進行しているのだ。
なので、義男は今、何も悩むことはないのだ。
このまま計画通り着実に一歩づつ、ある一人の詐欺常習犯罪者に対する復讐計画に基づいて歩んで行けばよいのだから。