つまり、もう一度分かり易く言うならば、いうなれば、義男も出会い系などで幸子に出会い、2,3度奢らされて捨てられた口だったのだ。
その後は、いつも留守電で二度と連絡が取れることはなかったのだ。
そして、再び巡り合った今日この時ででさえも幸子は義男を思い出すことはなかったのだ。
確かに半透明の上半身姿で、見間違えるような不可思議な奇態で現れたのだからそれは無理もなかろう。
義男が幸子を覚えていたのは、2,3度しか会わなかったが、図書券を毎回買わされ、これまた例のごとく厖大な量の酒類を奢らされ、2度目のデートの時には高価なブランドのお洒落着までプレゼントさせられていたのだった。
そのお洒落着は初めて出会った時におねだりされた物だった。
確かブランド名はインゲボルグだった。
何から何までが懐かしくまるで昨日のことのように思い出されるのだ。
最後にあった日に貸した、FBIの連続殺人犯の深層心理学の本はとうとう戻ってこなかったが。
そうだ、幸子は小説家になるのが夢だったから、本が大好きだったのだ。
話を元に戻そう。
幸子は怯えながらも、いつのまにか頼もしくてまるで救世主のような義男のことを慕うように
なっていた。
星の王子様のようなチャーミングな笑顔にもドキドキとトキメイテイタ。
少しも思い出せはしなかったがスッカリ義男という男に好感を持ち、半透明の上半身姿だと言うことに対してもなんら不審な気持ちを持たなかった。
義男がまた幸子に語りかけた。
「君が覚えていなくてもね、君に騙されたと言う沢山の男性の噂話を僕はこの耳で聞いてしまったのだよ、だからね、それが一人や二人ではないのでね、君の言うことだけ信じる訳にもいかなくなっているのだよ」
そう言われると幸子はキッとし表情で義男に向き直り、
「では、私(わたくし)にいったいどうしろというのですか?」
「それでは、君は自分の罪を認めるのだね、そういうことだと受け取っていいのだね」
義男にそう答えると幸子は腰まで伸びた長い髪を手串で掻き揚げ、翻しながら艶っぽいポーズでこう答えたのだ。
「私(わたくし)にはまったく記憶がないことなので、もっとキチンと説明をして頂けませんか?でなければ、何も認めることはできません」